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第112回学術集会(平成18年10月29日(日))

【シンポジウムII−1】
3.周産期医療からみた生殖補助医療


板倉 敦夫
埼玉医科大学産婦人科・教授


 生殖補助医療(ART)の登場は,不妊カップルに光をもたらし,社会問題化している少子化対策にも貢献している.しかし,ARTによる多胎妊娠の増加は,周産期医療,特に医療資源が不足している新生児医療の負担を大きくしている.2004年の愛知県の調査では,NICU入院患者のうち不妊治療後妊娠は,患者数は12%であったが,NICU医療費は都市部の病院で33%,周辺部で24%を占めていた.さらに長期入院例はそれぞれ44%,41%を占め,新生児医療に対するARTの影響を具体的に示した.多胎妊娠は,未熟児をNICUに同時に入院させ,切迫早産では出生まで呼吸器やベッドを複数準備しておく必要があるため,新生児医療は数字以上に多胎に対する負担を感じている.また,高齢・多胎妊娠,および複数回手術既往やfrozen pelvisでは,母体合併症も多くなり,産科医療も負担を感じている.さらに多胎妊娠,早期産児の予後を周産期センターで初めて説明され,動揺する妊婦にも遭遇する.そのため,ART担当医と周産期担当医が,移植胚数をめぐって反目しあう場面も起きている.
 埼玉医科大学病院および同総合医療センターでは,周辺の産科施設閉鎖に伴い,母体搬送応需率が低下している.その結果,多胎妊娠は初期の紹介例が増加している.医療資源が不足している周産期センターの現状では,今後多胎妊娠の母体再搬送,新生児搬送が増加する可能性が高く,NICUベッドを探してセンター病院間を患者がさまよう事態も懸念される.このような周産期医療の現状も,ARTを行う際に患者へ伝えておくべきと考える.
 埼玉医科大学総合医療センターでは,35才未満かつ2回目までの胚移植においては,原則胚盤胞によるelective single embryo transfer(eSET)としている.本センターは,ARTからNICUまで同一施設内で行っており,周産期予後をフィードバックできることが,eSETの早期導入につながっている.また大阪府医師会周産期医療委員会では,多胎妊娠のリスクについて患者に伝え,自らの意思で胚移植数制限を行うことを推奨している.患者の理解を得た上で移植胚数を決定するためには,妊娠率のみではなく周産期予後の情報を説明することも不可欠である.
 周産期医療資源の増加と晩婚化・高齢妊娠防止のための事業をART担当医と周産期担当医が協力して促進する必要もあるが,まず早急に行うべきことは,協力してART妊娠の母体・出生児の予後をART現場にフィードバックすることである.しかし,ART施設→妊娠・分娩管理施設→周産期センター産科→小児科(新生児科)と患者移動のあるシステムで,医療機関同士の情報提供のみに頼っていたのでは,ART担当医に正確な情報は届かない可能性が高い.また,不妊治療に対する偏見からART施設からの患者本人への問い合わせは,コンタクトすら拒否されることも多く,特に予後不良例からの情報は得られにくい.したがってART施設の責任で情報収集を行っても限界があり,データベース作成とフィードバックをART施設以外で行うことも考慮する必要がある.


日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 43(3) 250-250, 2006


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