関東連合産科婦人科学会
会員ログイン 代表挨拶
総会・学術集会
学会誌
定款
公告
利益相反
役員構成
事務局案内
求人施設一覧
関連リンク

 関東連合産科婦人科学会会誌 オンラインジャーナル

<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る

第125回学術集会(平成25年6月15日(土),16日(日))

【教育セミナー1】
子宮体がん幹細胞の生物学的特性の解析と 新規治療法の開発


加藤 聖子
九州大学大学院医学研究院生殖病態生理学分野


 近年,がん組織の中に,Cancer Stem-like Cells(CSC)の存在が報告され,このCSCを含む癌細胞の細胞集団は,腫瘍抵抗性や転移能に関与すると考えられている.CSCを分離する方法としては,細胞をDNA結合色素Hoechst33342で染色し,UVで励起させた際,450/600nmの波長を暗く発現している細胞集団side-population(SP)細胞を分離する方法が用いられる.  我々は子宮体癌組織からの初代培養細胞,子宮体癌細胞株Hec-1にSP細胞が存在し,このHec1-SP細胞は,未分化,自己複製能,腫瘍細胞と間質細胞への2方向性分化能,造腫瘍能亢進を示し,CSCの特性を持つことを明らかにした.更に,このHec1-SP細胞の形態を観察すると足突起を持ち,著明な運動能を持つことを示した.  続いて,ラット不死化子宮内膜細胞株RENT4細胞にヒト[12Val]K-RAS遺伝子を形質導入し造腫瘍能を獲得したRK12V細胞より分離したRK12V-SP細胞とRK12V-NSP細胞の培養液中に子宮体癌の治療に使われる抗がん剤(cisplatin,paclitaxel,doxorubicin)を添加したところ,RK12V-SP細胞の増殖能は変化をみとめず,がん幹細胞は既存の抗がん剤に対して抵抗性を持つことを示した.マイクロアレイ解析で,RK12V-SP細胞はRK12V-NSP細胞に比べて増殖因子やサイトカインを含む多くの遺伝子の発現が亢進しており,CSCの増殖や維持には複数の因子やシグナルが関与していることが示唆され,がん幹細胞を標的にした治療のためには,複数のシグナルを阻害する必要があると考えられた.そこで,多様な作用を持つヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤に着目しHDAC阻害剤のsodium butyrate(NaB)を用いてRK12V-SP細胞への効果を検討した.NaBはSP細胞のコラーゲンコートディッシュ上の一次コロニー形成や軟寒天培地上のコロニー形成を完全に抑制し,RK12V-SP細胞のSP再出現率を濃度依存性に抑制した.また,NaBは,RK12V-SP細胞のDNAダメージシグナルを活性化し自己複製能を抑制した.  最近CSCとEMTの関与が報告され,EMTの性質を示す乳癌CSCの増殖を特異的に抑制する薬剤としてSalinomycinが同定された.前述したマイクロアレイのパスウエイ解析にてSP細胞はEMTに関与するシグナル伝達経路を構成する遺伝子群の発現が亢進しており,子宮体がん幹細胞の性質にもEMTが重要であることが示された.そこで,我々はSalinomycinのHec1-SP細胞に対する効果を解析した.SalinomycinはHec1-SP細胞においてアポトーシスを誘導し,Wntシグナルを抑制することにより,細胞増殖を抑制し,運動能,浸潤能やマウス皮下への腫瘍形成も抑制した.  我々は子宮体がん幹細胞に対してHDAC阻害剤が自己複製能を抑制すること,EMT阻害剤が運動能・浸潤能・増殖能・腫瘍形成能に対して有効な薬剤となる可能性を明らかにした.CSCはこの他にも多様な性質を持ち,CSCの生存や維持には,複数のシグナル分子が関与していると思われる.CSCを標的とした治療法の開発にはそれぞれの特性を抑制する薬剤を組み合わせて用いるか,多様な作用機序を持つ新規薬剤を開発するなどの戦略が重要であろう.


関東連合産科婦人科学会誌, 50(2) 294-295, 2013


一般社団法人関東連合産科婦人科学会事務局 〒102-0083 東京都千代田区麹町4-7 麹町パークサイドビル402 株)MAコンベンションコンサルティング内
TEL:03-3288-0993 FAX:03-5275-1192 E-mail:kantorengo@jsog-k.jp
Copyright (C) 一般社団法人関東連合産科婦人科学会