|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
【原 著】
メソトレキセート(MTX)局注療法が有効であった帝王切開後瘢痕部妊娠の1症例
長谷川 潤一, 市塚 清健, 松岡 隆, 白土 なほ子, 大槻 克文, 関沢 明彦, 岡井 崇
昭和大学医学部産婦人科学教室
帝王切開後瘢痕部妊娠は異所性妊娠のなかで最も危険な形態の一つであるが,最もまれな疾患であるためその治療法は確立されていないのが現状である.症例:32歳,3経妊3帝王切開.最終月経より12週6日,少量の不正出血があるため当院外来を受診した.経腟超音波検査・MRI検査にて,肥厚した内膜と内子宮口から子宮前壁にかけて膀胱側に押し出されている胎嚢を認めた.帝王切開後瘢痕部妊娠と診断し,保存的療法としてMTXの胎嚢内投与を行うこととした.子宮頸管前壁に局麻後,エラスター針にて経腟超音波ガイド下に胎嚢内穿刺を施行した.内容液を吸引し,MTX 50 mg/4 ml注入した.その後少量の出血は持続したものの腹痛はみとめなかった.副作用は軽度の肝酵素の上昇を認めたのみであった.治療前尿中hCGは6,140 IU/lであったが順調に下降し,投与後21日目には陰性化し,超音波による計測でも胎嚢像が縮小したため退院した.壊死組織を混じた少量の不正出血は持続したが投与後90日目には完全に消失した.超音波検査においても帝王切開部の子宮筋層に楔状な瘢痕を認めるのみになった.本疾患の治療に際し,子宮内容除去術は筋層の菲薄化のため子宮,膀胱損傷の危険性が高く,また開腹などの病巣切除は大出血の危険性が高いので,可能な限り外科的処置を避け保存的治療を選択するのが良いと考えられる.その中でもMTXを胎嚢内に局所投与する方法は副作用も少なく有用であると考えられた.
Key words:Cesarean section scar, Ectopic pregnancy, Intramural, Isthmic, Methotrexate
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 40(4)
441-447, 2003
|