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【原著】
産婦人科領域における手術後の静脈血栓症リスクと予防的ヘパリン療法
松本 直樹, 福田 貴則, 鈴木 啓太郎, 田部 宏, 森 裕紀子, 西井 寛, 渡辺 明彦, 落合 和彦, 田中 忠夫*
東京慈恵会医科大学付属青戸病院 産婦人科 *東京慈恵会医科大学付属病院 産婦人科
近年,術後の深部静脈血栓症は,常に起こりえる疾患であるという認識が広まりつつある.そして,それに起因する肺塞栓症は致死的疾患であるため,手術に際しては,それらに対する医療者側の注意,患者へのインフォームド・コンセント,予防的措置などが必要と考えられる.しかし,今までガイドラインなど明確な管理,対応の指針がなかったのが現状である.今回我々は,実際に,術後の静脈血栓症について患者への説明を行い,予防的ヘパリン投与およびその他の予防措置を施行した.予防的ヘパリン投与に際しては,考案した静脈血栓症リスクスコアを用いてハイリスク群を選別したうえで持続点滴静注にて施行した.ヘパリン使用群,非使用群それぞれにおいて,術前,術後1日目,術後3または4日目の血液検査所見(ヘモグロビン値(Hb),血小板値(Plt),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT),トロンビン・アンチトロンビン複合体値(TAT),D-ダイマー値(DD))を測定した.術後ヘパリン投与が血液検査所見に与える影響を検討する目的にて,ヘパリン投与群と非投与群の間の血液検査結果について比較検定した.TAT,DDの高値が血液凝固線溶系亢進状態を反映するものとすると,持続点滴静注による1日1万〜1万5千単位のヘパリン投与にて,TAT,DDの術後の上昇が抑制されており,かつHb,Plt,APTTの有意な変化をもたらさず,静脈血栓症の予防としての実用性,有用性が示唆された.また,各リスクファクターや静脈血栓症リスクスコアと術前のTAT,DDとの間に一部有意な相関を認める部分もあり,血栓症のリスクを推し量る一つの目安として臨床上十分参考となるものと考えられた.
Key words:Deep Vein Thromboembolism, Prophylaxis, Heparin, Obstetric or Gynecologic Operation
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 41(4)
349-357, 2004
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