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【特集】
胎児下部消化管閉鎖を疑った先天性クロール下痢症の1例
神農 隆, 村越 毅, 中野 紀子, 平井 久也, 塩島 聡, 安達 博, 尾崎 智哉, 渋谷 伸一, 中山 理, 成瀬 寛夫, 鳥居 裕一
聖隷浜松病院総合周産期母子医療センター 周産期科
先天性クロール下痢症(Congenital Chloride Diarrhea,以下CCDと略す)は,回腸末端及び結腸におけるClの能動的輸送の障害が原因とされる稀な遺伝的疾患である.我々は出生前に下部消化管閉鎖を疑ったCCDの1女児例を経験したので報告する.【症例】30歳,1経妊0経産.妊娠初期は問題なし.前医にて妊娠26週時より腸管拡張像(蜂巣様)を指摘され,妊娠31週時より羊水過多が出現した.妊娠32週4日下部消化管閉鎖疑いにて当科紹介初診となり,超音波検査にて前医と同様の所見を認めた.その他,胎児・胎盤に形態学的異常を認めなかった.同日,入院管理とし羊水除去施行.羊水Cl濃度は109 mEq/l(正常値99〜107 mEq/L)であり軽度高値.1)羊水過多,2)腸管拡張像,3)膀胱充満なきことより胎児下部消化管閉鎖を疑った.妊娠34週2日に羊水除去(羊水Cl濃度109 mEq/L),妊娠35週6日に羊水除去(羊水Cl濃度110 mEq/L)施行.妊娠36週2日破水後陣痛発来し鉗子分娩.新生児は2,768 gの女児でApgar scoreは1分後8点,5分後9点.NICU入院後,腹部単純レントゲン写真にて拡張した腸管ガス像認めるも,注腸造影では消化管閉鎖は確認できず.その後も腹部膨満・水様性下痢が続き,著明な体重減少.日齢3から低Na・低Cl血症となり電解質輸液.日齢6に経口NaCl末内服.以上の所見と便中Cl濃度が109 mEq/Lと高値を示したためCCDと診断.以後経過良好であり外来経過観察となった.【結語】胎児腸管拡張像・羊水過多を確認し下部消化管閉鎖を疑ったが生後CCDと診断した症例を経験した.出生前に下部消化管閉鎖を疑った場合は,頻度は少ないが鑑別診断としてCCDも考慮すべきであろう.
Key words:Congenital chloride diarrhea, Prenatal diagnosis, Multiple bubble sign, Polyhydramnios, Low intestinal atresia
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 44(1)
67-71, 2007
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