|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第102回学術集会(平成13年10月21日(日))
【教育講演】
ヒト胞胚は何を語るか.―胚培養法の進歩と胞胚期移植―
久保 春海
東邦大学医学部第1 産婦人科学教室教授
近年,ART 培養技術の進歩により,従来の早期胚(D 2 D 3 )移植(ET )から胞胚期 (D 5 D 6 )移植(BT )を行うケースが増えてきている.Milki ,らのBT とD 3‐ ET の成績 を比較した後方視的研究では妊娠率,着床率ともBT の方が優れていると報告している.し かし,Huisman らの前方視的研究では,BT とD 3‐ ET では妊娠率に有意差を認めていな い,また着床率でも形態良好な胞胚のみを選択してBT した場合はD 3‐ ET に比べて有意 差を認めるが,遅延胚,形態不良胚を加えた成績では有意差を認めていない.このような 矛盾からD 5‐ BT がART の成績に本当に効果があるのかどうかは議論すべき問題である. 安部の報告ではマウス早期胚を子宮内に自家移植すると着床率は非常に低値であり,大部 分は変性してしまう.他の哺乳類でもほとんどがそうである.しかし,ヒトの場合,早期 胚を子宮腔にET しても15 〜20 %位の着床率がある.この事実からヒトの場合,早期胚は 子宮内環境にあまり影響されずに,胞胚期まで子宮内で生存が可能であると考えられてい る.さらにMansour らは無作為対照試験でAssisted zona hatching (AZH )を行ったD 3 胚群と,対照群とに分けて子宮内にET した結果,両群間に妊娠率に差は無く,むしろ過去 にART 不成功症例ではAZH を行った方が妊娠率が高いことを報告している.このことは D 3 早期胚は透明帯のbarrier 無しに子宮内に戻しても,なんら悪影響を受けないことを示 している.これらのことを考慮に入れれば,ヒト早期胚を子宮内環境に置くことが不利益 になる根拠がないように思われるが,少なくとも形態的にグレードの高い,viable な胞胚を 選択すれば着床率はさらに向上する.胚を体外環境で長期培養してからBT する場合,体外 での胚発生過程が胞胚のquality に重大な影響を及ぼす.この点を最近の知見について言 及したい.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 38(3)
228-228, 2001
|