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第102回学術集会(平成13年10月21日(日))

【教育講演】
家族性腫瘍と癌予防


宇都宮 譲二
癌研究会付属病院家族性腫瘍センター部長, 順心会家族性腫瘍研究所所長


 すべての腫瘍には遺伝性のものがある.Knudson は癌を遺伝子突然変異に対する環境と
遺伝要因の相関の程度で四つに分類した.Oncodeme 4 は胚細胞単一遺伝子変異が基点と
なり発症するメンデル遺伝型腫瘍であり全体の1 〜5 %で,SNPs が関与する多因子性がん
Oncodme 3 はそれよりかなり多いと推定される.家族性腫瘍はこの両者を含む.20 世紀の
終わり家族性腫瘍の研究は発癌機構の解明の早道を提供してがん予防戦略を論理的なもの
とした.これは一例を詳細に観察する臨床遺伝疫学と分子生物学の協力の成果である.「稀
な出来事は自然のもう一つの原則である」所以である.その臨床的特長は 家族性 若年
性 多重性 症候群である.しかし発生した個々の腫瘍は一般集団の腫瘍と基本的に差が
なく,がんの自然経過が20 年ほど早送りされたようなものである.だからその予防対策は
働き盛りの人々の延命としての効果もある.
 1989 年,演者はHenry Lynch 教授と共に神戸市で国際遺伝性大腸がんシンポジューム
を開催した(婦人科領域運営委員はLund 大学教授Stig Kullander 博士).その結果,遺伝
がんの研究が活発となり各種家族性腫瘍の原因遺伝子発見が促進された.International
Collaborative Group for Hereditary Non‐ polyposis Colorectal Cancer (ICG ―HNPCC 1990
〜)もその一つである.国内では1990 年,大腸がん研究会内に遺伝性大腸癌研究計画が発
足し,1995 年,すべての臓器を包含すべく家族性腫瘍研究会へとバージョンアップした.
同会は1997 年神戸市でUICC Familial Cancer and Prevention Project 国際シンポジュー
ムを開催した.その結果,家族性腫瘍の遺伝子研究の成果を直接がんに死削減に直結せし
めるための研究(Translational Research )基盤構築の必要性が合意された.われわれは
ELSI ガイドイン作成,地域拠点ネット構築,遺伝カウンセラー養成,臨床遺伝子検査企業
活動の活性化,臨床遺伝疫学の復興,遺伝に関する社会教育等を目標として努力している.
その上で各種家族性腫瘍に対する遺伝子診断によるがん予防プロジェクトを実行しつつ基
盤の強化を図り,将来SNP 時代の予知予防医療の展開の準備を目指している.
 家族性腫瘍は一個体で多臓器に腫瘍が発生するから各科専門医の協力が欠かせない.す
べての医師が家族性腫瘍に関する情報と関心を共有する事が必要である.婦人科領域診療
では,子宮体がんは遺伝性非ポリポージス大腸がん(HNPCC ),卵巣がんは遺伝性乳がん,
やHNPCC の症状でもあるので諸兄諸姉におかれては既に多くの家族性腫瘍を診療してお
られる.その経験を関連各科の専門家と交換することはこの境域の研究と診療法の発展に
極めて重要であり,家族性腫瘍研究会はその為に存在すると言っても過言ではない.


日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 38(3) 232-232, 2001


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