|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第103回学術集会(平成14年6月9日(日))
【特別講演】
新生児外科の現状と将来
橋都 浩平
東京大学小児外科
小児外科学会では5年ごとに新生児外科症例の全国集計を行っている.最初に集計が行われた1964年には食道閉鎖症,腸閉鎖症,臍帯ヘルニアなどの主な新生児外科疾患の死亡率は軒並み50%を越えていた.しかしその後にこれらの疾患の死亡率は着実な低下傾向を示し,現在ではほとんどの疾患で10%を切る値となっている.この中には染色体異常や合併奇形を持つ児も含まれているので,多くの疾患では死亡率に関しては,限界近くにまで低下してきているのではないかと考えられる.これには新生児外科治療の進歩が大きく貢献しているのはもちろんであるが,さらに新生児医療全体の進歩,出生前診断の発達などが関与している. ところがこの全国集計の中で,ただひとつ他とは異なる死亡率の変化を示している疾患がある.それは先天性横隔膜ヘルニアである.この疾患の死亡率は1980年代に一時的に上昇し,その後に低下するという動きを示している.低下したとは言っても,すべての新生児外科疾患の中でもっとも高い死亡率を示している.この先天性横隔膜ヘルニアにおける一時的な死亡率の上昇は,治療法の変化によるというよりも,母集団の変化によると考えられる.すなわちそれまで小児外科まで到達せずに死亡していた症例が治療を受けるまでに至ったと言うことである.このことは周産期医療の進歩が見かけ上の死亡率の上昇をもたらす可能性があることを示している. この先天性横隔膜ヘルニアに対して,胎児手術の試みが行われるようになって約10年が経過している.先天性横隔膜ヘルニアの他に,二分脊椎,肺の先天性の 胞性疾患であるCCAM ,仙尾部奇形腫などにたいしても,胎児手術が行われている.こうした胎児手術に本当に妥当性があるのか,まだその評価が固まったとはいえない.そこで現在までの胎児手術の歴史をたどるとともに,現在われわれが行っている胎児手術の実験から,その将来の可能性を述べる.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 39(2)
97-97, 2002
|