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第103回学術集会(平成14年6月9日(日))
【シンポジウム】
生殖内分泌
久保田 俊郎
東京医科歯科大学
「科学的根拠に基づいた医療」と訳されるevidence‐ based medicine (EBM )は,1990 年代初頭欧米で生まれた医療の新しい規範ともいえる考え方で,日本でもあらゆる臨床領 域に浸透しつつある.EBM を実現するには,個別の臨床経験や基礎研究そしてretrospec‐ tive な臨床研究を基礎とし,さらに無作為化された臨床試験(RCT )を実施し,最終的に は大規模で多数のRCT の成績を総合的に解析(meta‐ analysis )する必要があると考えられ る.本講演では,生殖内分泌領域の中で排卵障害・不妊症・子宮内膜症を中心に,現時点 でのEBM ついて考えてみたい. 排卵障害に関しては,その原因がどの部位にあるのかを把握することが肝要であり,現 在までに臨床症状に応じた各種排卵誘発法についてのおおむねのevidence は得られてい る.軽度の視床下部性排卵障害やPCOS 症例には抗エストロゲン剤(clomiphene citrate )が 第一選択薬となり,手術適応のprolactinoma 症例を除外した乳汁漏や高プロラクチン血症 の症例には,dopamine agonist が有効である.Clomiphene 抵抗性の症例に対してはgona‐ dotropin (Gn )療法が次の選択肢で,Gn 製剤は従来からの更年期女性尿由来のものに加え, 遺伝子組み換え技術により作製されるrecombinant FSH に関するevidence が増加してい る.PCOS に対して薬物療法以外に,laparoscopic ovarian drilling の有効性も報告されてい る.不妊症や補助生殖医療(ART )におけるevidence は,徐々に明らかにされつつある. 不妊の原因は多様であり,また患者の年齢・不妊期間などの違いにより治療の個別化も必 要となるためRCT が少ないのが現状であるが,AIH の有効性,IVF‐ ET や顕微授精に関す るRCT は散見されつつある.またassisted hatching 法,胞胚期初期胚の子宮内移植法,卵 や初期胚の培養法,胚移植手技,無精子症の際の外科的採取法に関する大規模な検討がCo‐ chrane 共同計画で開始されている.子宮内膜症のevidence に関しては,ダナゾール,GnRH アナログ,MPA は月経痛に対し有効と報告されている.子宮内膜症合併不妊については, 現時点ではevidence に基づいて治療方針を選択するまでには至っておらず,特に手術療法 の選択は医師の技術,施設の特徴,患者の希望などを総合的に判断して決定されている. 現状のevidence に鑑みて考えられる治療方針としては,子宮内膜症が軽度の場合は他の不 妊因子の治療を優先し,これでは妊娠せず子宮内膜症が不妊原因と考えられる場合は腹腔 鏡手術を行い,手術後でも妊娠しない場合はIVF‐ ET などのART を行うことが妥当と考 えられる.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 39(2)
103-103, 2002
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