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第105回学術集会(平成15年6月8日)
【シンポジウム1】
子宮筋腫の治療を再考する―妊孕性温存を含めたQOLの改善を目指して― 1.GnRHアナログ
綾部 琢哉
帝京大学
1.GnRHアナログ療法の目的 1)術前投与による筋腫縮小:手術の容易化,開腹手術では腹壁創の長さの短縮.筋腫核出術では子宮筋の切開創の短縮.経腟手術の可能性.術中出血量の減少. 2)月経停止による貧血の改善 3)症状を有する筋腫に対し,治療がすぐにはできない場合の一時的な待機策.閉経間近と思われる女性に対し,GnRHアナログを使用し続け閉経に「逃げ込む」. 2.GnRHアナログの子宮筋腫に対する作用機序 1)性ステロイドホルモンの低下:性ステロイドはEGF,EGF受容体,IGF-1,Bcl-2,TNFα,p53などの局所因子を介して筋腫細胞の増殖とアポトーシスのバランスに関与している.GnRHアナログによりゴナドトロピン分泌が抑制され卵巣からの性ステロイド分泌が抑制されることが,子宮筋腫の縮小に関与していると考えられる.性ステロイドの低下により筋腫細胞数は減少しないが,細胞の大きさや細胞内基質が減少し,myofilamentの減少がもっとも顕著であるとされている.細胞外基質が少なく血管が豊富な筋腫の方が縮小効果が大きいと考えられる.子宮筋組織の約30%に染色体異常,例えば,del(7q)やt(12;14)などが見られる.子宮筋腫における性ステロイドの関与の程度が,筋腫組織の染色体異常の種類によって異なることが推測されている. 2)血流量の減少:子宮動脈にエストロゲン受容体が存在し,性ステロイド低下により子宮動脈の血流が減少する.筋腫の縮小に伴う2次的な血管径の減少もあると考えられる. 3)なんらかの直接作用:筋腫核にはGnRHが直接結合し得る.腫瘍内局所因子やその受容体がGnRHの影響を受ける可能性があり,GnRHアナログがこれらを介して筋腫に直接作用することが考えられる. 3.GnRHアナログの子宮筋腫に対する効果 GnRHアゴニスト投与後8〜12週までは子宮筋腫は著明に縮小し,以後は縮小速度は鈍化する.縮小率は症例により大きく異なるが,おおよそ40〜50%である.投与終了後は8週前後から再び増大し始め,3〜4か月で元の大きさに戻る. GnRHアンタゴニストでは投与後2〜4週間以内に筋腫縮小効果が見られる.アゴニストに比べて効果発現が早いのは投与開始直後のゴナドトロピンの上昇(flare up)がアンタゴニストでは起こらないためと考えられている. 4.子宮筋腫に対するGnRHアナログ療法の問題点 1)子宮肉腫:GnRHアナログ投与中でも腫瘤が増大傾向を示した場合,子宮肉腫の可能性も考える. 2)アゴニスト投与開始時の出血:flare upにより子宮内膜が増殖し,それに続くゴナドトロピンの抑制によってエストロゲン消退出血をきたすことがある. 3)粘膜下筋腫の縮小に伴う変性や局所壊死にともなう出血:投与開始後6〜10週ころに多い.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 40(2)
144-144, 2003
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