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第105回学術集会(平成15年6月8日)
【シンポジウム2】
妊産婦の薬物療法を再考する―有効性と安全性の確立を目指して― 3.出生前ステロイド投与の現状
松田 義雄
東京女子医科大学
周産期医療の進歩に伴う未熟児の罹病率・死亡率の改善には目を見張るものがある.しかしながら,未熟児の予後は成熟児と比べると依然として厳しく,早産の予防とともに,早産治療(tocolysis)を適切に行なうことは,周産期医療に携わる医師にとって,重要課題である. 実際には,Tocolysisを行いながら妊娠延長を図っていくわけであるが,未熟児出生が差し迫っている場合には,母体へのステロイド投与が考慮される. 1972年,Liggins & Howieが出生前にステロイドを投与された母親から生まれた新生児に呼吸障害が少ないことを報告して以来,その有用性が広く認められるようになり,未熟児分娩が予想される症例に対しては,母体へのステロイド投与が推奨されるようになった. 出生前ステロイド投与の有効性はその投与によって,胎児肺サーファクタントの効果が増強され,肺構築の成熟が促進される可能性から支持されている.また,ステロイド投与群1780例を対照群1780例と比較した最近のメタアナリシスによると,投与群では対照群と比べると,呼吸窮迫症候群(RDS)だけでなく,脳出血(IVH),壊死性腸炎(NEC)など急性期の疾患が少なくなり,新生児死亡の減少にもつながっていることが判明している. 出生前ステロイド投与の最大効果は,投与後24時間から7日までの間で認められ,それ以降になると効果が消失するとされている.そのため,かつては一週毎の「繰り返し投与」が行われていた.「繰り返し投与」は,動物実験では肺機能の改善がみられ,臨床報告ではRDSの頻度,重症度が減少すると報告されている.しかし,動物実験では,視床下部―下垂体―副腎系,発育などに対する悪影響も認められている.また,ヒト臨床例においても,胎児/新生児では,脳や副腎の発育や成長が抑制され,感染症や慢性肺疾患の増加が懸念されている.さらに,精神発達遅滞や行動発達を含めた児の長期予後についても疑問視する報告もみられるので,2000年のNIH conference statementでは,「繰り返し投与」はあくまでも「臨床研究である」と,位置付けている. さらに,出生前ステロイド投与は,わが国では保険適応がなく,いわゆる未承認薬の一つに数えられており,「包括医療」とも連動した新たな今後の課題といえよう. 本シンポジウムでは,これらの問題点を中心に話を進めていく予定である.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 40(2)
150-150, 2003
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