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第105回学術集会(平成15年6月8日)
【一般演題】
妊娠・分娩(1) 脳梗塞の既往を持つProtein S(PS)活性低下症例の妊娠・分娩管理
倉澤 剛太郎, 伊藤 雄二
社団法人地域医療振興協会西吾妻福祉病院産婦人科
〔症例〕35歳3妊1産.〔既往歴〕自然流産2回.4年前に妊娠末期より重症妊娠中毒症を発症し,経腟分娩約30時間後に右半身麻痺を来し脳梗塞と診断された.後遺障害は残らず,凝血学的検査は行われていない.〔現病歴〕平成14年5月10日を最終月経として妊娠し,妊娠6週に当院受診となった.妊娠9週よりアスピリン50mg/日の内服を開始した.妊娠27週の脳MRIで後頭葉両側に静脈洞の陳旧性脳梗塞巣を認めたため,妊娠29週時に凝血学的検索をしたところ,PS活性値20%と著減が判明した.妊娠経過中ループスアンチコアグラントは陰性であり,PT,APTTは異常なく合併症も認めなかった.全前置胎盤のため妊娠35週6日に入院し,ヘパリン(5000U)を1日2回手術前日夜まで皮下注射し,37週3日に帝王切開となった.3278g,Ap7-8-9で女児を出生し,術中出血は2172gであった.術後は血栓予防のため弾性ストッキング,AVインパルスを使用し,術当日夜よりヘパリン注射を再開した.術後2日目よりワーファリン2mg/日の内服を併用し,4日目にヘパリン投与は中止とした.PS活性値は妊娠29週20%,手術当日術前20%,術後1時間後20%,16時間後7%,24時間後8%と推移したが,術後経過は良好で8日目に退院となった.現在遺伝学的にも検討中である.PS異常症の周術期におけるPS活性の変化はあまり知られておらず,今回われわれはそれを観察し得た.特に術後の活性低下には注意が必要と思われた.先天性のPS欠損症はもちろんのこと,若年発症の脳梗塞,肺梗塞,または重症妊娠中毒症や習慣性流産の既往がある場合は,後天性のPS活性低下も念頭において検索し,予防的治療や周術期管理を行う必要があると考えられた.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 40(2)
206-206, 2003
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