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第106回学術集会(平成15年10月5日)
【教育講演2】
周産期領域の超音波診断
宇津 正二
聖隷三方原病院
【はじめに】 周産期医療においては,先人達によって開発された超音波断層装置と,その後の技術開発や診断ソフトの発達のおかげで,この約30年間に渡って,著しい進歩を遂げることが出来ました.電子スキャンによるリアルタイム断層像で子宮内の胎児が動く断面が見えたときは驚きでした.その後はドップラ血流計測,カラードプラによる血流評価や,3次元立体構築からリアルタイムの4次元行動まで,ハイテク化はすざましい勢いで進歩し,胎児の形態や動きが細かく観察出来るだけでなく,胎児自身の機能評価までもが出来るようになりました. 今や,周産期医療の現場における超音波診断の役割は,胎児異常や子宮内異常を発見するだけではなく,胎児が元気であることを確認したり,更に,早産や胎児仮死,分娩時異常などを未然に防ぐための産科処置を安全に行うためのモニタとしての役割も重要であると考えます. 我々の施設で行っている超音波診断について紹介します. 【妊娠初期超音波スクリーニング】(妊娠6週〜妊娠13週頃までは主に経膣法で) 先ずは子宮外妊娠の否定(GS in utero)から始まり,胎児頭臀長の計測による出産予定日の算定が重要です.Nuchal Translucencyや無脳児などの胎児異常が無いことの確認も必要.多胎妊娠の膜性診断もこの時期で確認しておくことがTTTSの予防にも繋がります.子宮筋腫や卵巣嚢腫などの合併異常のルールアウトも抜かせません. 【妊娠中・後期超音波スクリーニング】(妊娠20〜26週頃と妊娠30〜34週頃の2回) 胎児の外表から内臓までの形態異常のチェックと発育チェックを2回行います. 子宮動脈血流波形と臍帯動脈血流波形のチェック 胎盤のチェック(附着部位や厚さ,輝度のヒストグラム幅) 羊水のチェック(AFIによる羊水量の半定量) 臍帯のチェック(卵膜,辺縁附着,過捻転,巻絡,下垂) も2回行い,母体血流異常か胎児附属物の異常からの胎児発育遅延かを予測し,子宮収縮抑制などの予防処置を開始します.それでもなお効果の見られない場合は入院安静加療を勧めます.骨盤位と羊水量(AFI)による自己回旋の予測と外回転術の適応(BPD/AFI)も重要.切迫早産例における臍帯因子とVDの発現に注意. 特に妊娠28〜32週頃の切迫早産例では児頭脳室周囲高輝度域(PVE)の存在は早産出生後のPVLの発症にも関連すると言われています. 【分娩時超音波診断】 分娩室ででも胎児モニタとして超音波診断ができるように診断装置を配備しています.産婦の入院時に,助産婦または当番医によって胎児の胎向,胎勢,羊水量(AFI)をチェックし,回旋異常や臍帯巻絡など分娩時異常を惹起し易い状態を事前にチェックします.さらに,臍帯異常(巻絡,過捻転)と臍帯静脈血流波形のチェックによって,胎児のストレスを予測します.自己回旋や用手回旋,鉗子分娩時のモニタとして用いています. 以上のように,周産期における超音波診断は胎児の異常発見が主目的ではなく,胎児が元気で,大丈夫であるということをモニタするということも大きな役割であるということを認識していただきたい.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 40(3)
279-279, 2003
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