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第106回学術集会(平成15年10月5日)

【教育講演3】
子宮内膜症とその悪性化


小林 浩
浜松医科大学


 子宮内膜症性嚢胞を発生母地とした卵巣癌が増加しているとの報告が散見される.その特徴は,比較的早期癌が多く,endometrioid adenocarcinomaやclear cell carcinomaが多く,grade 1が多いため,完全摘出により比較的予後良好であるといわれる.文献的に考察すると,最も頻度が高いものでは,子宮内膜症性嚢胞の4〜5%に上皮性卵巣癌が,上皮性卵巣癌の16〜17%に子宮内膜症性嚢胞が合併していると報告されている.子宮内膜症性嚢胞を病理学的に詳細に検索するとMetaplasia,12.1%;Hyperplasia,9.4%;Atypia,5.9%;Endometrioid+clear cell ca,4.1%の合併がみられ,一部の子宮内膜症性嚢胞から卵巣癌に変化していくことが推定されている.
 静岡県では昭和60年から産婦人科医会・学会が主体となって「卵巣癌検診」を実施している.この卵巣癌検診を後方視的に解析した結果,(1)卵巣癌検診は子宮頸癌のような施設外検診よりは病院に来院した患者を対象としてスクリーニングすることにより約70倍高率に卵巣癌患者を発見することができる.(2) Serous-typeの卵巣癌は1年前には内診上卵巣腫大等の異常がない患者が多く,de novoで発癌し短期間で癌性腹膜炎を呈する可能性がある.(3) Non-serous-typeの卵巣癌はadenoma-adenocarcinoma sequenceにより数年経過して徐々に発癌する症例が多い.これらの症例にはclear cell caricnomaおよびendometroid carcinomaが多く含まれる,ということがすでに判明している.
 今回の追跡調査では子宮内膜症からの卵巣癌発生に着目してデータを解析した.医師判定により「良性疾患の疑い」と判定された13086名を対象に初診時あるいは再診時に臨床的子宮内膜症性嚢胞がどのくらい存在し,そのうち何名が卵巣癌になったかを調査した.経過観察期間は2年から15年に及ぶ.子宮内膜症性嚢胞合併・非合併というのはあくまでも卵巣嚢腫を経膣超音波断層法で確認でき,臨床的な観点から子宮内膜症性嚢胞と診断した症例である.したがって,すべての症例が腹腔鏡検査を受けた確定診断ではない.特徴的なことは,子宮内膜症性嚢胞と診断された6398例から46例(0.72%)の卵巣癌が発見されていることである.
 次に,子宮内膜症性嚢胞患者6398例を年齢別に分けて調べると高齢になるにしたがって卵巣癌の発生が増加し,50歳以上で子宮内膜症性嚢胞を合併した場合には2.14%に卵巣癌が合併した.静岡県の過去13年間の癌登録結果を参考にすると,卵巣癌1932例の年齢別分布は,20歳代に発生した卵巣癌の全体に占める割合を1とすると,全卵巣癌では50歳代が4.25倍となるが,子宮内膜症性嚢胞から発生した卵巣癌は50歳代が10.7倍と高率になっている.なお,30歳代,40歳代では両者において有意差はみられていない.単純には比較できないが,やはり閉経期の子宮内膜症性嚢胞からの発癌率は有意に高率である.
 したがって,閉経近くあるいは閉経後になっても子宮内膜症性嚢胞が存続する場合あるいは増大する場合は高率に卵巣癌が発生する可能性が予想される.また,子宮内膜症性嚢胞の治療(ホルモン療法)を行うと卵巣癌でも多くの症例で初期には腫瘍サイズは縮小する.しかし,再増大後に卵巣癌と診断されている.卵巣癌と診断される前に病院を受診しなかった理由は月経痛等の症状が消失しているか,軽減しているためであることも今回の調査で判明した.
 以上より,閉経期の子宮内膜症性嚢胞患者はnon-serous-typeの卵巣癌発生の素地となっている可能性があり,「閉経すれば子宮内膜症性嚢胞は治る」と患者様に説明することは注意を要する.さらに閉経期に増大する子宮内膜症性嚢胞は悪性化を見逃さないように各種画像診断により評価すべきであると思われる.なお,原因は不明だが,子宮内膜症性嚢胞が悪性化する前には月経痛等の症状が消失することが多いので注意が必要である.


日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 40(3) 280-280, 2003


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