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第106回学術集会(平成15年10月5日)

【シンポジウム 産婦人科の未病対策】
1.婦人科癌の未病対策


森 満
札幌医科大学医学部公衆衛生学教室


 婦人科癌の中でも大きな割合を占める子宮頸癌,子宮内膜癌,卵巣癌について,現在までの知見に基づいて未病対策をまとめた.
 我が国においては,子宮頸癌の年齢調整死亡率は低下傾向にあり,子宮内膜癌と卵巣癌のそれは上昇傾向にある.年齢別にみると,子宮頸癌では40歳代以下の低年齢層においては死亡率が逆にやや増加する傾向にある.子宮内膜癌や卵巣癌では,60歳代以上の高年齢層での増加傾向が著しい.
 子宮頸癌は高リスク型のヒト乳頭腫ウイルス(HPV16,HPV18など)に性感染することが病因であるといわれる.近年の若年齢者における性生活習慣の変化が低年齢層での子宮頸癌死亡率上昇と関連している可能性がある.喫煙習慣が子宮頸癌のリスクを高めると報告されている.野菜や果物に含まれるカロテノイド,ビタミンC,ビタミンEなどの抗酸化物質がそのリスクを下げる可能性がある.
 子宮内膜癌はエストロゲン単独刺激(unopposed estrogen)に子宮内膜が曝露されることが病因であるといわれる.そのようなホルモン環境と関連する危険因子としては肥満,糖尿病,高血圧,不妊傾向などがある.また,外因性の危険因子としては,更年期障害に対するエストロゲン単独補充療法や乳癌の治療にタモキシフェン剤を使用することなどが挙げられる.大豆などに多く含まれる植物性エストロゲン類の摂取が子宮内膜癌のリスクを下げる可能性があり,動物性脂肪の過剰摂取がそのリスクを高める可能性がる.
 卵巣癌の病因としては,中断されることなく続く排卵(incessant ovulation)によって,卵巣表層上皮が卵巣皮質に取り込まれて封入嚢胞を形成する頻度が増えることが関与しているという仮説がある.そして,更年期障害に対するエストロゲン単独補充療法が卵巣癌のリスクを高めるという介入研究などが報告されていることから,卵巣表層上皮細胞,あるいは,封入嚢胞に対するエストロゲン刺激の亢進が卵巣癌の発生に関与していることが示唆される.また,遺伝的要因が卵巣癌の病因の一部に関与している.卵巣癌の危険因子としては,肥満,妊娠数や出産数が少ないこと,不妊傾向,エストロゲン単独補充療法,卵巣癌の家族歴(母親,姉妹)などが挙げられる.動物性脂肪の過剰摂取が卵巣癌のリスクを高める可能性がある.
 子宮頸癌の未病対策としては,コンドームの使用によって性感染を防止すること,喫煙をしないこと,野菜や果物などのビタミン類が豊富な食生活をすることが挙げられる.子宮内膜癌や卵巣癌の未病対策としては,肥満を避けること,糖尿病や高血圧に罹患しないこと,動物性脂肪を取りすぎないこと,植物性エストロゲン類を含めて植物性食品中心の食生活をすること,エストロゲン単独補充療法を避けることなどが挙げられる.卵巣癌の家族歴がある場合には,定期的に検診を受けて早期発見に努めることも必要であろう.


日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 40(3) 282-282, 2003


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