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第106回学術集会(平成15年10月5日)
【シンポジウム 産婦人科の未病対策】
3.体重減少性無月経の基礎と臨床
小辻 文和
福井医科大学
近年,痩せによる月経異常が急増し,その半数は美容のためのダイエットが原因となっている. I.体重減少患者の視床下部―下垂体―卵巣機能 痩せの程度により様々な月経異常となるが,典型的な場合には第2度無月経となる.血中LH,FSH,エストロゲン,fT3は低下し,コレステロールが上昇する. II.診療の実際 患者をフォローアップから脱落させないために,対話に時間をとることが肝要である. 1 体重減少中の診療 (1)体重回復が治療の鉄則である.BMI:19もしくは下垂体機能の正常化を目標とする. (2)病識に欠ける場合には神経性食欲不振症を疑い,専門家によるカウンセリングを依頼する.(3)治療の必要性を理解するにもかかわらず体重が回復しない場合には,食習慣の改善を指導する.また,ストレスの潜在に注意を払う. 2体重回復後にも卵巣機能が再開しない症例 1)挙児希望例 排卵誘発を行う.第1度無月経や無排卵周期症ではクロミフェン療法が有効である.第2度無月経にはhMG-hCG療法やGnRHパルス投与療法を行うが,卵巣過剰刺激の発症に注意を要する. 2)挙児希望がない症例 カウフマン療法の反復による経過観察が基本である.第1度無月経例では,カウフマン療法で視床下部を刺激しながら時にクロミフェンで排卵を惹起する. III.診療に際しての留意点 1 体重減少中の不妊治療は禁忌である 痩せによる卵巣機能停止や甲状腺機能低下は生体防御反応である.体重回復をみないままに,万が一,妊娠すると,胎児死亡や中枢神経発達異常など重大なトラブルを招く.以下の条件が整った時点で不妊治療を始める. 1)(1)下垂体機能と甲状腺機能が正常化し,(2)卵巣の多嚢胞が消失し,(3)血中コレステロール値が正常化していることが,生体が痩せのストレスから離脱しているサインである.この条件が整ってなおBMIが19を下回る場合には,体質的痩せと考えられる. 2)BMIが19に達しても下垂体機能が正常化しない症例は,体重回復後にも視床下部機能が戻らない例と考えられる.挙児希望があれば,hMG-hCG療法やGnRHパルス療法を行うが,卵巣過剰刺激の発症に注意を要する. 2 体重減少中のHRT エストロゲン補充が痩せによる骨量低下を防止するというエビデンスはない. 3 体重減少と多嚢胞卵巣症候群 痩せの程度が軽い時に,LH分泌がFSH分泌を上回り,卵巣に多嚢胞を認めることがある.我が国でPCOSを診断される症例には,このような病態が多く含まれる.欧米に比べPCOSの頻度が高く,痩せ型で高アンドロゲンを伴わない症例が多い理由と考察される. おわりに 若い女性が全体にスリムになっており,痩せの存在を見逃すことがある.月経異常をみた場合には本症を疑うことが肝要である.また,不用意なダイエットの危険性を人々に啓蒙することも我々の務めと考える.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 40(3)
284-284, 2003
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