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第107回学術集会(平成16年6月20日(日))

【教育講演】
産婦人科診療におけるEBM―エビデンスの伝え方―


浦島 充佳
東京慈恵会医科大学・総合医科学研究センター・臨床研究開発室


 医学教育で有名なウイリアム・オスラー先生は3つの道を訓えている.
1.Art of detachment
2.Virtues of method
3.Quality of thoroughness
 すなわち,「医師たるもの,誘惑から逃れ,方法を自分のものとし,問題を深く掘り下げて考えることのできる資質を備えるべきだ」と主張している.
 プラトンは「教育とは,一生にわたる過程であり,学生は大学時代その第一歩を歩みだすに過ぎない」と前提した上で,教育とは諸原理を1つ1つ教え込み,学生を正しい道に導き,方法を授け,勉強のやり方を教え,本質的なものとそうでないものとを早くから識別しうる方法を教えることと定義している.
 Evidence-based medicine(EBM)は,患者さんより問題点を抽出し,これをエビデンスに照らし合わせ,批判的に吟味し,再び患者さんの診療に活かすという一連の行為である.つまり,EBMとは臨床上の問題解決の方法論の1つであり,知識でもなければ,そこには正解・不正解もないのである.現在,数多くの医学雑誌があり,日々新しいエビデンスが蓄積されつつある.そして,インターネットなどの情報技術の進歩により私たちはこれらのエビデンスを有効に活用できる状況に在る.私たちはオスラー先生の訓えに従い,クリニカル・エビデンスを正しく解釈し,問題を深く掘り下げて考えられる資質を身に付けなくてはならない.また,プラトンが指摘するように,学問により複雑な臨床の中から真実を見出し,これを医療に応用しなくてはならないのである.
 しかし,EBMを単なる方法論としてとらえたとしても,短い時間で語れるものではない.そこで,本講演では諸々のEBMの教科書では強調されていない「批判的に吟味したエビデンスを患者さんの診療に活かす」場面にフォーカスをあてる.従来のEBMは,ある治療(検査,予防)のリスクあるいはベネフィットを定量的にアセスメントすることに重点を置いてきた.しかし,実際には医療者の意味するリスク・ベネフィットが患者側に十分伝わっていないのが現実ではないだろうか?あるいは,同じように診療方針を説明しても,それに対する反応は個々に異なることが多い.逆に,同じエビデンスを説明しても,医師の話方次第で患者側の反応は異なるかもしれない.このような現実の背景に潜む,人のリスクに対する認知の相違について,具体例を示しながら概説する.日産婦関東連会報 第41巻2号
2004.
略 歴
1986年東京慈恵会医科大学卒業
1986年イギリスSt. Thomas病院留学
1986年東京慈恵会医科大学小児科研修
1988年東京慈恵会医科大学付属病院小児科学講座助手
1993年医学博士
1994年Harvard Medical School, Dana-Farber Cancer Institute
2000年Harvard School of Public Health卒業,Master of Public Health取得
2001年Canada McMaster大学EBM教育講習会参加
2001年東京慈恵会医科大学 臨床研究開発室 講師(現在に至る)


日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 41(2) 104-105, 2004


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