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第107回学術集会(平成16年6月20日(日))
【特別講演 ―先端的知見を臨床へ生かす―】
2.脂肪細胞とアデイポサイトカイン
船橋 徹
大阪大学大学院医学系研究科・医学部・分子制御内科学講座
女性にとって,脂肪組織は美の象徴としてのみでなく,生理機能に重要な役割を担っている.脂肪組織の過度の減少や逆に増加が生理周期を乱すことは良く知られた事実であるし,ヒトのみならず哺乳動物において,妊娠時に皮下脂肪組織が増大するのは生理的な現象であると考えられている.このように脂肪組織が生体防御に大切な役割を担うことは将に婦人科領域では古くから注目されているにもかかわらず,過栄養に傾く現代社会では,脂肪組織が過剰蓄積すること,すなわち肥満が単純に悪いとみなされている. 私達は,糖尿病,高血圧,高脂血症やこれらリスクの集積の結果生じる動脈硬化疾患の基盤としての肥満の研究を進め,脂肪組織絶対量ではなく,脂肪分布がこれら疾病の発症に関与していること,つまり腹腔内内臓脂肪蓄積が重要であることを示してきた.そして内臓脂肪蓄積と疾病を繋ぐ分子基盤を明らかにするために,脂肪組織発現遺伝子の大規模解析を行い,この組織が従来考えられていたような余剰エネルギーの蓄積のみでなく,多彩な生理活性物質(アデイポサイトカインと呼ぶ)を分泌する巨大な内分泌臓器としても機能することを明らかにした.この中には免疫系の補体分子が多数含まれ,脂肪組織の生体防御機能の一端が伺える. 脂肪組織発現遺伝子解析過程で私達が発見したアデイポネクチンは,コラーゲン様の線維状ドメインと補体C1q様の球状ドメインからなるキメラ分子で,ヒト血中にホルモンやサイトカインを遥かに越える5―10μg/mlという高濃度で存在し,刺激により急激に動くことはないが,肥満,特に内臓脂肪蓄積時や糖尿病,動脈硬化疾患で低下しており,減量療法で2―4週のレベルで増加するという大きな流れを示す.細胞生物学的研究,発生工学的研究や臨床疫学的研究により本分子は抗動脈硬化,抗糖尿病作用をもつことが明らかになってきた.つまり脂肪細胞は生体防御分子を合成,分泌しているが,内臓脂肪蓄積によって分泌不全が生じ,現在メタボリックシンドロームと呼ばれるマルチプルリスクを集積する動脈硬化易発症状態の形成に一翼を担うことが明らかになってきたのである.本講演ではアデイポネクチンを中心に,本分子の多彩な機能に関する最新の知見を紹介し,これを如何に臨床に活かすべきかについて考えたい.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 41(2)
108-109, 2004
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