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第107回学術集会(平成16年6月20日(日))

【特別講演 ―先端的知見を臨床へ生かす―】
3.がんの予防・診断・治療に有用なゲノム情報


横田 淳
国立がんセンター研究所・生物学部


 近年,ヒトの全ゲノム配列が決定され,その情報を活用した様々な解析技術が進歩してきたことにより,がん研究がまた新たな展開を見せてきた.ヒトがんの発生と進展に関与するがん遺伝子・がん抑制遺伝子の探索研究は1980年代から現在まで続いているが,ゲノムの構造や遺伝子の総数が分かったことにより,どこまで探索を続ければよいか,その最終地点が見えてきたのである.例えば,発がん機構を明らかにするためには,がん細胞に集積している遺伝子変異(ゲノム異常)を網羅的に解析し,個々の異常とがん細胞の悪性形質発現との関連性を把握することが可能となった.転移能,浸潤能,薬剤感受性など,個々のがん細胞の特性も,発現している遺伝子を網羅的に解析して遺伝子発現プロフィールとして捉えたり,蛋白質レベルでもプロテオームとして細胞内にある蛋白質すべてを解析したりするようになってきている.このような研究から,がん化を引き起こす,あるいは,がん形質を規定する新たな遺伝子が同定されて来るのは時間の問題で,近い将来,がんのゲノム情報が集積・整理され,その情報に基づいて,次々と,新しいがんの予防法・診断法・治療法が開発されてくると予想される.
 我々はヒトゲノム配列の多様性の研究の中から発がんの遺伝要因となり得る遺伝子多型(genetic polymorphism)を探索している.また,がん細胞内に集積している遺伝子異常の中からがん細胞の転移能を規定している遺伝子を探索している.さらにはがん細胞で特異的に発現している遺伝子の中から治療の標的となる遺伝子を探索している.どの研究もヒトの全ゲノム情報が必須であるばかりか,個々人によって異なっているゲノム配列についてまで解析していかなければならない.今,解析しなければならない遺伝子や検体数は膨大だが,これらの研究からそれぞれの原因となる遺伝子が同定できれば,その後のがんの新たな予防法・診断法・治療法の開発へ大きくステップアップできると考えている.本講演では,遺伝子を標的とした肺がんに対する我々の研究の取り組み方を紹介しながら,がん研究におけるゲノム情報の重要性とその有用性について論じる.時間が許せば,卵巣がんと子宮頚がんに関してもゲノム情報について文献的考察を試みる.


日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 41(2) 110-111, 2004


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