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第107回学術集会(平成16年6月20日(日))
【特別講演 ―先端的知見を臨床へ生かす―】
4.p53安定化シグナルの再構築を標的とした癌分子標的治療の開発
和氣 徳夫
九州大学生体防御医学研究所・ゲノム機能制御学部門・ゲノム創薬治療学分野
がんは,遺伝子機能の異常に起因する疾患である.遺伝子機能異常は,本来,正常細胞で維持されている様々な情報伝達系の脱制御の原因となり,がん細胞に特有な表現形質を出現させる.近年,がん細胞形質の形成に関与する情報伝達系の脱制御機構が次々と解明されつつある.分子生物学,構造生物学あるいは情報生物学を研究基盤として,脱制御された情報伝達系を,がん細胞に再構築する手段の開発が進められている.このうち,私たちはp53安定化シグナルという情報伝達系に興味を持ち,研究を行っている.正常細胞は有限寿命であるため,数十回の分裂後,増殖を停止し,老化により死滅する.この老化プログラムにはテロメア長,Rb及びp53を介する情報伝達系の関与が知られている.さらに,過剰な増殖シグナルやDNA障害も正常細胞に老化を導く.本老化プログラムは,テロメア長非依存性であり,p53安定化シグナルが重要な役割を果たす.いずれのタイプの細胞老化も,がんの発生を予防する生体防御機構と考えられている.このため,がん細胞は無限増殖能を獲得するために細胞老化に関わる情報伝達系を不活化する.私たちは核酸医薬品さらには作用機序の不明な既存の薬剤を用いて,がん細胞で不活化されているp53安定化シグナル(p14ARF/MDM2/p53/p21)を再構築し,がん細胞老化を誘導することを目的としている. ヒストン脱アセチル化阻害剤は,p53非依存性にp21CDKインヒビター発現を導き,がん細胞に老化プログラムを再構築する.この老化誘導にはRbを介するシグナルは重要ではない.HPV(+)子宮頸癌細胞でもHDAC阻害剤は細胞老化を誘導するためである.p21下流でRb非依存性シグナル伝達が老化プログラムの再構築に関わっている.また,HPV E6に相補的な光架橋型アンチセンスオリゴDNAもHPV(+)子宮頸癌細胞にp53安定化シグナルを再構築する.p53安定化シグナルの再構築により,HPV(+)子宮頸癌細胞にアポトーシスが誘導される.本講演ではこれらp53安定化シグナルを再構築することによる癌分子標的治療の可能性について解説する.日産婦関東連会報 第41巻2号 2004. 略 歴 昭和56年早稲田大学大学院博士後期課程修了 昭和56年東京慈恵会医科大学医用エンジニアリング研究室 助手 平成10年東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター高次元医用画像工学研究所副所長,同大学 助教授 平成12年同大学 同研究所所長 平成14年同大学 教授(医博,工博,理博) 略 歴 昭和54年3月金沢大学医学部卒業 昭和54年5月大阪大学医学部第二内科入局 昭和56年7月国立循環器病センター 心臓血管内科レジデント勤務 昭和58年8月大阪大学医学部第二内科にて LDL受容体異常症の研究に従事 平成4年7月大阪大学医学部第二内科助手 平成4年9月米国シカゴ大学医学部客員研究員 RNA編集酵素の研究に従事 平成6年9月帰国 内臓脂肪症候群,特に脂肪細胞 分泌分子の研究 平成9年4月大阪大学医学部講師 平成12年10月大阪大学大学院医学系研究科講師 略 歴 昭和53年3月群馬大学医学部卒業 昭和53年5月群馬大学医学部附属病院医員(第三内科研修医) 昭和54年4月国立高崎病院非常勤職員(第三内科研修医) 昭和55年4月群馬大学大学院医学研究科博士課程入学 (東京大学医科学研究所細胞遺伝学教室研究生) 昭和57年4月東京大学医科学研究所附属病院医員 昭和58年4月米国カリフォルニア大学ロスアンゼルス校医学研究員 昭和60年8月財団法人がん研究振興財団非常勤職員 (国立がんセンター研究所リサーチレジデント) 昭和60年12月国立がんセンター研究所がん転移研究室研究員 昭和62年12月国立がんセンター研究所ウイルス部室長 昭和63年4月国立がんセンター研究所がん転移研究室室長 平成4年6月国立がんセンター研究所生物学部部長 略 歴 昭和47年(1972)7 月北海道大学医学部附属病院医員 昭和54年(1979)4 月ローズウェルパーク記念研究所(米国) 昭和56年(1981)12月北海道大学医学部附属病院助手 昭和60年(1985)7 月北海道大学医学部附属病院講師 昭和63年(1988)12月九州大学生体防御医学研究所生殖生理内分泌学部門教授
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 41(2)
112-113, 2004
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