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第107回学術集会(平成16年6月20日(日))
【シンポジウム ―生殖医療と周産期医療の連携を求めて―】
1.生殖医療がもたらす周産期医療へのfeedback
末岡 浩
慶応義塾大学・医学部・産婦人科学講座
産婦人科領域において,生殖医療は配偶子形成から受精を経て妊娠の成立までを,周産期医療は妊娠の成立から出産までを領域とするように時期的に大別できるのであろうが,健康な児の出産に向けた医療上の努力が行われていることに双方分野の共有できる意義がある.妊娠が成立した後に児の健康とその成育環境を管理し,最も望ましい出生時の成育環境を提供するために周産期医療が発展してきたと理解している. 生殖医療は拳児を希望する夫婦に対する不妊症の診療から端を発しており,生殖細胞の分化は自然環境に相応しい遺伝的素因が引き継がれて生命を維持し,個体の発生と成育が行われているが,生殖医療のうち不妊治療は自然に妊娠が成立しないカップルに対して指導や人為的な手法も含め手助けをする技術といいかえられる.この分野が拡がり融合的に統合してfeedbackできる領域が形成されつつある.その原点は雌雄1つずつの配偶子から成立した妊娠個体の情報である.不妊原因となる遺伝子変異の伝播に関する診断,情報提供を含めた遺伝カウンセリングもfeedbackの一つである.また,男性HIV感染者に対するウイルス除去技術を用いた人工授精,体外受精や,正常精子分画を分離する精子処理法なども挙げられる. さらに配偶子や胚細胞の持つ情報の分析が可能になると新たなfeedback技術として生まれてきたのが遺伝性疾患のキャリアに対して初期胚から遺伝子診断を行う着床前遺伝子診断がある.その対象や是非については各国の歴史的社会的事情が異なり,これまでも議論されてきたが,これによって技術を必要とするクライアントに対する救済の選択肢は生殖医療の中で発展を遂げている. 生殖医療の現在に至るまで多様な革新的技術開発によって急速に発展してきたが,この基盤となっているのが1980年代より急速に発展した生殖補助技術(ART)の普及と治療成績の安定化であり,同時に1990年代にすさまじい速度で技術革新が行われた遺伝子解析技術である.前者は体外受精とその関連技術がその中核をなし,後者はヒトゲノム解析プロジェクトと各疾患の原因となる遺伝子診断技術の革新的な開発によって代表される.この中で遺伝情報をクライアントである両親が知り得た時に,出生前診断が診断の結果として妊娠中絶を選択する両親の存在を前提としての医療行為に対して議論がある一方で,出生前診断を受けて辛い選択を余儀なくされた両親は特に新たな技術を求めてきた.多様性を容認する社会をめざすためにも生殖医療がもたらす周産期医療へのfeedbackとして,様々な技術供与が可能である.どのようにこれを用いるかが我々にとって今後の課題であり,全ての国民のコンセンサスを前提にすることは困難であったとしても議論のプロセスを尊重すべきであろう.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 41(2)
118-119, 2004
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