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第107回学術集会(平成16年6月20日(日))
【シンポジウム ―生殖医療と周産期医療の連携を求めて―】
2.不育症治療と周産期予後
竹下 俊行
日本医科大学・産婦人科学講座
不育症の原因は多岐にわたるため,その治療法も原因・病態により様々である.原因疾患として比較的頻度の高い子宮の器質的異常をとってみても,中隔子宮,双角子宮などの子宮奇形と頸管無力症では流産を起こす機転,時期が異なり,治療法も前者には子宮形成術が行われ,後者には頸管縫縮術が行われるように,全く異なっている.したがって,これらを同一線上に並べて治療効果や予後を論ずることはできない.近年,不育症の原因として免疫異常に起因する病態が注目を集めており,本シンポジウムではこの免疫異常に焦点を当て,各種治療の周産期予後に及ぼす影響について考察する. 一般に不育症の原因としての免疫異常は,母体免疫系と移植抗原としての胎児・絨毛との間に起こる免疫応答の異常である同種免疫異常と,最終病態として凝固異常を呈する抗リン脂質抗体症候群に代表される自己免疫異常に分類される. 同種免疫異常による不育症に対して20数年前から夫リンパ球による免疫療法が行われてきた.ところが,免疫療法は患者の選択,適応基準,プロトコールなどが一定せず,過去多くの調査が行われてきたが,最近のメタアナリシスではその効果を疑問視する傾向が強い.また,米国FDAは免疫療法の有効性が不確かなこと,および感染症の危険性から本療法を差し控えるよう勧告を出した.一方,わが国では多くの施設がこれを実施しており,最近のアンケート調査でも大学附属病院の70%がいまでも実施していることが判明した.当科では1992年から原因不明の原発性習慣流産に対して免疫療法を行っている.今回,周産期予後という観点から本療法の再評価を試みたい. 自己免疫異常に起因する不育症は抗リン脂質抗体症候群に代表され,最近では低用量アスピリン療法とヘパリン療法の併用が治療の主流となりつつある.両者とも催奇形性をはじめとする児への影響はないというエビデンスが集積しつつあるが,長期予後まで含めると不明の点も少なくない. 以上,本シンポジウムでは自験例を提示しながら,周産期予後の見地から不育症の治療,特に免疫異常に起因する病態に対する治療について考察したい.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 41(2)
120-121, 2004
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