|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第107回学術集会(平成16年6月20日(日))
【シンポジウム ―生殖医療と周産期医療の連携を求めて―】
5.周産期栄養管理を成人病胎児期発症説から考える―低出生体重児を中心として―
福岡 秀興
東京大学大学院医学系研究科・医学部・国際生物医科学講座
低出生体重児の発症頻度は戦後減少して1970年代から1980年代後半で.5.3―5.7%までとなったが,その後上昇して200年には9.0%に近づいている.即ち現在10名に1名が低出生体重児となりつつある.また平均出生体重は減少傾向が著しい.この現象は『小さく生んで,大きく育てる.』ことが理想であるとして,徹底した周産期管理の結果得られた望ましい成果として喜ぶべきであろうか.答えは否である.先進工業国で出生体重の減少傾向があるのは日本のみである.出生体重の減少の意味することは,本来その児が獲得すべき体重が得られていない,即ち低栄養状態に暴露されている劣悪な子宮内環境で発育した結果と言って過言でない. 英国Southampton大学医学部にスタッフ約200名のFetal Origins of Adult Diseases(FOAD)研究所が2000年に開設され,世界の多くのフィールドで活発な研究が行われている.この胎児期発症説(Barker説)は,21世紀最大の医学仮説とされ,疫学,介入実験,動物実験その他の領域で,世界的に爆発的に多くの研究がなされつつある.成人病は生活習慣病と言われるが,胎児期の低栄養状態は,出生後に高血圧・高脂血症・動脈硬化・糖尿病(metabolic syndrome),骨粗鬆症,認知能の低下等の発症がプログラムされる.それ故十分な妊娠中の栄養管理がされたならば,成人病発症を効率良く抑制することが出来るとする説である.受精卵から分娩に至るまでの細胞分裂は平均44回で,出生後成人となって死亡するまでは約11回と言われている.成人病は生活習慣病と考えがちであるが,劣悪な子宮環境に暴露されると,細胞分裂回数からも当然遺伝子構造の変化を引き起こし,出生後如何なる生活習慣を心がけても成人病発症リスクは高くなる.小児成人病の増加傾向,低学力化等はこの視点から捉えるべきである.またそのハイリスク児を如何に育成するかも大掛かりな介入試験がヨーロッパでは既に行われつつある. 著しいやせ願望が日本を支配し,20代女性の約1/4が,BMI 18.5以下の低栄養状態・栄養不良の状態にあり,現実には妊婦貧血や葉酸欠乏によると推察される神経管閉鎖不全の増加傾向等がある.また栄養調査からは,栄養所要量を確保できている妊婦はほとんどおらず,低栄良・栄養不良の妊婦が増えつつある.細かく計画された日本の妊婦検診はまさに最良の妊婦栄養の管理システムといえるが,現実は妊娠中の体重増加抑制を中心として,妊娠前体重の多寡に関わらず,妊娠中の体重増加は7―8kg以下が理想とする施設も多い.この周産期管理が,我々自らが次世代の成人病を作りつつある可能性があり,其の責は重い.現実には,この視点で検診を見なおすべきであり,早急な対策指針を策定しなければ,産科学では後進国なりとの誹りを免れぬ時が既に来ていることを認識すべきである.日産婦関東連会報 第41巻2号 2004. 略 歴 昭和55年慶應義塾大学医学部卒業 昭和61年8月〜63年6月 米国ジョンズ・ホプキンズ大学(postdoctoral fellow) 昭和63年済生会神奈川県病院医長 平成3年慶應義塾大学助手(医学部産婦人科学) 平成8年慶應義塾大学専任講師(医学部産婦人科学) 平成12年慶應義塾大学助教授(医学部産婦人科学) 平成13年慶應義塾大学病院遺伝相談外来運営委員会委員長 略 歴 昭和56年3月日本医科大学医学部卒業 昭和61年3月日本医科大学大学院医学研究科修了 昭和61年4月日本医科大学医員助手 平成1年8月米国National Institutes of Health 〜平成4年1月Jay A. Berzofsky博士の元で免疫学,特に抗原提供に関する 研究およびワクチンの開発に関する研究に従事 平成4年10月日本医科大学付属第一病院産婦人科局長 平成5年10月日本医科大学産婦人科学教室講師 平成10年10月同 助教授 平成15年4月日本医科大学産婦人科学教室主任教授 (日本医科大学大学院女性生殖発達病態学講座教授主任) 略 歴 昭和57年3月東京慈恵会医科大学卒業 昭和57年5月三井記念病院外科レジデント 昭和62年6月東京慈恵会医科大学産婦人科学教室助手 平成5年3月米国南カルフォルニア大学医学部 平成6年11月米国カルフォルニア大学サンフランシスコ校医学部 平成10年5月東京慈恵会医科大学産婦人科診療医長 平成11年7月東京慈恵会医科大学産婦人科学講座講師 平成12年8月国立大蔵病院婦人科医長 平成14年3月国立成育医療センター周産期診療部胎児診療科医長 略 歴 昭和63年3月東京慈恵会医科大学卒業 昭和63年5月東京慈恵会医科大学附属病院研修医 平成2年5月東京慈恵会医科大学産婦人科学教室助手 平成8年1月東京慈恵会医科大学産婦人科診療医員 平成15年4月同講師 略 歴 昭和48年4月東京大学医学部医学科卒業 昭和52年10月東京大学助手(医学部産婦人科学教室) 昭和56年4月香川医科大学助手(母子科学教室) 昭和56年12月米国ワシントン大学医学部薬理学教室(セントルイス) Resaerch Associate Rokefeller財団生殖生理学特別研究生 昭和58年12月香川医科大学講師(母子科学講座) 平成2年4月東京大学助教授(医学部母子保健学講座) 平成9年4月東京大学大学院助教授(医学系研究科発達医科学)
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 41(2)
126-127, 2004
|