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第109回学術集会(平成17年6月12日(日))
【シンポジウムI 2.無痛分娩で,分娩第二期になり無感覚のため怒責がかからない.こんな時どうする―無痛分娩の実際と普及のために―】
周産期2 1)産科麻酔医の立場から
照井 克生
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター周産期麻酔部門
ここでの無痛分娩とは,現在世界的に主流の硬膜外無痛分娩法を指している. 硬膜外無痛分娩が目指すものは,母児にとって安全で効果的な鎮痛であり,しかも分娩経過や様式にできるだけ影響を与えないことである.しかし母体が全くの無痛・無感覚になってしまえば,効果的な努責ができず,分娩第II期が遷延し,鉗子や吸引分娩,ひいては帝王切開を余儀なくされるであろう.従って,今回の問題提起は,まさに硬膜外無痛分娩の主要な課題そのものである. このような課題に対して,産科麻酔医はこれまで,局所麻酔薬の種類と濃度を工夫してきた.努責を効果的なものにするためには,運動神経遮断が最小でなければならない.胸壁(肋間筋)はもとより,下肢も腹壁も筋力が保たれていなければ,効果的な努責にはならないだろう.そこで運動神経遮断と感覚神経遮断の分離効果に優れているブピバカインやロピバカインが,胎盤通過性が低い利点もあり,硬膜外無痛分娩の主流となった.濃度もかつての0.25%から,現在は0.1%以下が主流である.局所麻酔薬を低濃度とすることで,鎮痛効果が減弱する分を,フェンタニルなどオピオイドを添加することで補っている.現在の硬膜外無痛分娩の中心は,0.1%ロピバカインもしくはブピバカインに,0.0002%フェンタニル(2mcg/ml)を添加した溶液を,持続硬膜外注入する方法である.その他,エピネフリンやクロニジンなど,様々な薬物を添加することで,局所麻酔薬の濃度を減らし,鎮痛効果を高める試みもなされてきた. また,投与方法についての改良では,麻酔範囲と局所麻酔薬投与量を最小限にする目的で,患者管理による硬膜外鎮痛法Patient Controlled Epidural Analgesia(PCEA)も行われている.脊麻・硬麻併用法Combined Spinal Epidural(CSE)Analgesiaも普及している.持続硬膜外注入を開始する前に,くも膜下腔にオピオイドと少量の局所麻酔薬を投与する方法で,1,2時間の鎮痛が得られる.くも膜下鎮痛後には,頸管開大の速度が速まったとするよい影響も報告されている. しかし現在の低濃度局所麻酔薬とオピオイドを併用する持続硬膜外注入法でも,分娩第II期が平均で14分延長し,鉗子・吸引分娩の頻度が3―4倍に増えるのは事実である.オキシトシン使用頻度も2倍となる.幸い帝王切開率は上昇しないが,分娩第II期にも効果的な鎮痛を提供すると,鉗子・吸引分娩が増えることは解決されていない. 対策としては,陣痛の有無は産婦がわかる場合には,そのタイミングを生かして真剣に努責するよう,介助者がコーチングする.無感覚の場合は,局所麻酔薬濃度を減らす.麻酔範囲が広すぎる場合は,持続注入速度を減らす.麻酔範囲がT10以下とちょうどよいにもかかわらず,持続注入速度を減らす場合は,痛みが戻ってくるのは確実なので,それは速やかにお産させたい場合の最後の手段である.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 42(2)
134-135, 2005
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