|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第109回学術集会(平成17年6月12日(日))
【ランチョンセミナー4 38歳,不妊.子宮腺筋症による月経困難と過多月経が著しい.こんな時どうする.】
2)ART―Ultra long protocolなど
辰巳 賢一
梅ヶ丘産婦人科
このような症例に対する治療の選択肢としては,(1)GnRHアナログ(GnRHa)による内膜症の加療を行う.(2)手術を行う.(3)一般不妊治療を行う.(4)通常のIVFを行う.(5)ultra long protocolでのIVFを行う.などが考えられる. 年令が35歳未満なら(3),あるいは(1)→(3)という選択肢もあるだろう.しかし,38歳という年令は,妊娠率が急速に落ち始め,流産率が急速に上がり始める時期にあたる.妊娠するために残された時間はあまりない.(4)または(5)のように早めにARTを考慮する必要がある. 過多月経が著しい事から,この子宮腺筋症はかなり大きくなっていると考えられる.子宮腺筋症が大きくなると妊娠しにくくなるが,子宮腺筋症を手術的に切除しmass reductionを行うと自然妊娠する事も多い.このため,(2)のまず手術を行うという選択肢も存在する.ただ,子宮腺筋症の保存手術は難しく,癒着が起こりやすい.手術後の癒着により卵巣の位置が移動し,採卵が不可能となる可能性がある.さらに,手術により新たな卵管因子が加わる可能性もある.このようなリスクを考えると,直ちに手術を行うのもためらわれる. (4)の通常のARTを行う場合,short法はもちろん,long法を用いても子宮腺筋症の縮小は期待できず,着床に不利な状態での胚移植となる.この場合には一度採卵,IVFにより得た胚をすべて凍結保存し,GnRHaや手術によりmass reductionを行ってから胚移植を行うべきだろう. 3〜6ヶ月のGnRHa投与により子宮を縮小させて,そのまま卵巣刺激を行い,採卵,IVF,胚移植を行うのが(4)のultra long protocolである.これが最も負担が軽く妊娠率も高い方法であろう.妊娠が成立しなかった場合に直ちにGnRHaを再開すれば,比較的早期に次の採卵も可能である.ただ,大きな子宮腺筋症がある場合にはGnRHaによる子宮の縮小に限度があり,手術を行わざるを得ない場合もあるだろう. 演者は子宮腺筋症における手術療法の有用性は充分認めつつも,この症例に対してはART,あるいはARTによるバックアップを行った上での手術という治療方針をとりたい.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 42(2)
156-157, 2005
|