








|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第109回学術集会(平成17年6月12日(日))
【ランチョンセミナー7】
腹腔鏡手術における偶発合併症を起こした.こんな時どうする.―出血,腸管穿孔,尿管損傷など―
武内 裕之
順天堂大学産婦人科
【背景】腹腔鏡手術に限らず,全ての手術操作に伴い一定の確率で偶発症や合併症が発生しうる.腹腔鏡手術は,一般外科や婦人科領域において,1990年代から急速に発達普及してきた手術方法である.施行されるようになってからの歴史が浅く,手術器具も日進月歩の状態であるため,手術に伴う偶発症や合併症に関する検討が十分に行われていない. 【用語の定義】術中の臓器損傷など,直接の手術操作に伴って発生し,直ちにrepair可能であるものを偶発症,術中・術後を問わず開腹や輸血および再手術や特別の処置を要する場合を合併症と定義した.合併症は,発生時期別に術中・術後入院中・退院後に分類し,要した処置別に開腹手術・再腹腔鏡・輸血・特別な処置や通院に分類した. 【当科の状況】当科では1993年から腹腔鏡手術を開始し,2004年まで計4294例の腹腔鏡手術を施行した.合併症は44例(1%)に認められ,術中17例(0.4%),入院中20例(0.4%),退院後7例(0.2%)であった.開腹手術や再腹腔鏡手術が必要であったのは32例(0.7%),輸血を行ったのは6例(0.1%),手術以外の処置が必要であったものが6例(0.1%)であった. 【合併症の反省と改善点】クローズド法に伴って発生した総腸骨動静脈損傷への対策として,4本のコッヘル鉗子で臍部を挙上しブレードレストロカールを挿入する方法へ変更した.フィブリン糊スプレーキャップを腹腔内に遺残した症例への反省から,手術施行時の照明を明るくし,キャップの形状を改良した.点滴ルートを確保するため左手を水平に挙上して発症した上腕神経麻痺の反省から,回外した両手を躯幹にくるむ方法に変更した. 【偶発症への対策】比較的頻度の高い偶発症である子宮マニピュレーターによる子宮穿孔に対しては,吸収糸による縫合を行う.後腹膜の癒着剥離や基靭帯の処理に際しては,尿管走行の確認が重要である.尿管損傷の確認は,尿管の蠕動の視認や膀胱鏡による尿管口からの尿流の確認が有用である.ダグラス窩閉塞開放時には,子宮および直腸にcounter tractionを加え,子宮側で剥離するのがポイントであるが,癒着が広汎かつ強度である場合には直腸損傷に留意する.術中の直腸損傷確認には,骨盤腔に生理食塩水を注入して,S状結腸を腸鉗子でクランプし,ネラトンカテーテルで150〜200mLの空気を注入してリークテストを行う.また,術後管理として絶飲食の期間を十分にとり,慎重なドレーン管理を行いつつ,厳重に経過観察を行う. 【まとめ】術中に発生した偶発症を即座に認識し,適切な対策を講じれば,合併症の発生は最低限に抑制できる.腹腔鏡手術施行時には,その特性と限界を十分に理解して,慎重な手術操作を行うことが重要である.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 42(2)
162-163, 2005
|