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第110回学術集会(平成17年10月15日(土),16(日))
【教育講演2】
産婦人科領域における医療トラブルの特性
竹中 郁夫
もなみ法律事務所 弁護士・医師
昨今,医療訴訟は急増傾向を強め,たとえば提起される医療訴訟の新件数は平成16年度で1,107件となっています.この件数は,10年前の2倍以上です.また,この増加率は一般民事訴訟の増加率の2倍にあたります.このような環境下,産婦人科領域のトラブルの比重も,内科,外科等のメジャーな科に勝るとも劣らない大きさを持っています. 産婦人科において,医療トラブルが多発するバックグラウンドには,多くの要因があげられますが,主に,医療技術の進歩によって高度医療の成果が得られるようになった一方,ひとたび合併症,副作用が出現する際も,これらが大きなものになる可能性も大きくなったこと,出産自体は疾患でなく生理的なものであり,無事生まれて当然という感覚を持たれ易いこと,少子高齢化で,出産数が減り,親や家族のひとりひとりの児に対する思い入れが強くなる一方,産婦人科医の高齢化,医業としてのパイの縮小や人員のショートによる激務化によってフッレシュマンの参入が少なくなっていること,それらによる医療労働環境の低下によって安全配慮への十分なリソースの分配が難しくなってきていること,またこのような文脈や患者のニーズによって陣痛促進剤等使用の社会的適応などを余儀なくされる傾向にあること,通常の症例においては,医療機関としての安全確保能力よりも出産場所としてのアメニティが要求されがちなこと,危機管理として病診連携や病病連携が望まれるところであるが,このような環境でなかなか十全の実践が困難なこと,さらに産婦人科領域は生命倫理的行動規範を要求されるが,現実の社会では具体的判断が困難な錯綜した事態が次々と進行していること等々の事情が目立ちます. しかし,このようなバックグラウンドがあるゆえに,産婦人科領域における医療トラブルが社会からやむないものと見られることはありえず,関係者の懸命で賢明な努力によって,一歩でも環境改善をはからなければなりません.そのために,このような企画において十分な研鑽が必要になってくるものと思われます.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 42(3)
285-285, 2005
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