|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第110回学術集会(平成17年10月15日(土),16(日))
【シンポジウム1】
4.分娩管理におけるリスクマネージメント
谷 昭博
北里大学産婦人科 講師
日本産婦人科医会が行った医療事故・医事紛争収集結果では分娩事故が産婦人科医療事故の約7割を占め,そのうちの36%が分娩に伴う母体異常で,60%が分娩に伴う新生児異常であった.すなわち,分娩管理におけるリスクマネージメントが充分に機能すれば,産婦人科医事紛争は激減する可能性がある. 分娩時のリスクマネージメントを困難にしている背景は,まず妊娠分娩の絶対的な安全性の向上によってそれを当然視する風潮が患者側にあることがあげられる.分娩の結果が期待と異なった場合,それが稀であるという理由でなんらかの過誤の存在が疑われがちになる.一方,医療側にも1)小中規模施設では,稀に発生する緊急事態(母体大量出血など)に適切に対応する体制を継続的に維持することが困難である.2)現場の医師の高齢化と絶対数の減少のために,医療レベルの維持が困難となっている.3)現場は多忙を極めており,現代の医療に必要不可欠な充分な説明と同意を実施する体制となっていない(言い訳にはならないが,人手不足のために産婦人科の臨床現場が現代医療の標準から取り残されつつある可能性がある)といった要因もある.このような背景でひとたび医療事故が生じた場合の争点は分娩監視義務違反と充分な分娩時のリスクに対するインフォームドコンセントがなされていたかどうかに大別される. そこで,学会当日には出席学会員の先生も交え,以下のような点につき討論を進めて生きたいと考えている. (1)本人の希望するbirth planが現代の医療的観点からは明らかに時代遅れ(時代錯誤)あるいは非常識なものである場合(全く胎児心拍モニターをしない.母体の血液検査はしない等々)のリスクマネージメント (2)帝切既往症例の経腟分娩trialや骨盤位経腟分娩trialで,結果が不良の場合,同意を得る際に,危険性については充分説明した場合でも,「こんな大変なことになるとは思わなかった.ちゃんと説明をしてくれれば当然帝王切開を選択した」という主張がなされることが多いように思われるが… (3)緊急時の対応:鉗子・吸引遂娩術あるいは緊急帝切が施行される場合,詳しいリスク説明等は実施不可能なため,本人に口頭で同意を得て実施し,分娩後に夫に説明する,という経過になることが多い.緊急避難ということで許されるのだろうか.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 42(3)
291-291, 2005
|