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第110回学術集会(平成17年10月15日(土),16(日))

【シンポジウム1】
5.地域周産期医療におけるリスクマネージメント


渡辺 博
獨協医科大学病院総合周産期母子医療センター 教授


 栃木県では1996〜1997年に自治医科大学付属病院・獨協医科大学病院に総合周産期母子医療センターが設置され,人口100万人に1カ所の総合周産期母子医療センターという国の整備目標は既に達成されている.設置当初は母体搬送・新生児搬送とも100%近く応えることが出来ていたが,近年は諸般の事情から75%程度に低下している.搬送依頼施設は県内の一次医療機関が過半数を占め,地域周産期医療センターからの搬送がそれに次ぐ.ここ1〜2年は地域周産期医療センターの産科・小児科の業務縮小により,両センターへの搬送集中化が顕著となり,周産期医療ネットワークの機能が損なわれつつある.また近年他県からの搬送依頼が増加しており,応需率低下の一因ともなっている.
 この様な栃木県の現状でリスクマネージメントを考えるとき,様々な問題点が浮き彫りとなる.搬送先を確保するために費やす時間と労力,その間に状況が悪化したとき自施設で対応するか搬送を強行するかの判断,搬送中に発生したアクシデントに対する責任の所在,本人家族へ提供した情報内容の食い違いなど,複数の施設と多くの医療関係者が関与することによる,説明の不一致や対応の行き違いが生じることは少なくない.このような場合母児の転帰が期待と異なると,容易に医事紛争に発展する可能性がある.
 リスクマネージメントとして母体搬送・新生児搬送・逆搬送という周産期医療特有の転医方式における情報提供のあり方,インフォームドコンセントの取得法など改めて検討する必要がある.また搬送時に生じたインシデント・アクシデント事例の情報を集積して,貴重な経験を共有することにより,再発予防に活用することも検討したい.日産婦医会栃木県支部などで推進しているIT化も,有力な情報共有手段となることが期待される.
 さらに学会・研究会や周産期研修会などでの研鑽とともに,地域の医療関係者がお互いに顔の見える密接な関係を築いておくことも,古くて新しいリスクマネージメントといえよう.


日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 42(3) 292-292, 2005


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