|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第111回学術集会(平成18年6月18日(日))
【会長講演】
不妊治療から不妊予防への道
久保 春海
東邦大学医療センター大森病院第1産婦人科
近年,不妊医療の技術的進歩は,超音波診断,内視鏡治療,遺伝子組換技術による排卵誘発剤の開発など目覚しいものがある.特に,生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Treatment;ART)と称される不妊医療は,1978年の体外受精児第1号が英国で誕生して以来,わが国でもすでに11万人以上の児が誕生している.平成17年度の日本産科婦人科学会倫理委員会内登録調査小委員会報告によれば,平成15年度に出生したART児は17,400人であり,これは当該年度のわが国の総出生児数の1.6%にあたり,65人に1人がART児ということになる.しかしこの反面,10組に1組が不妊症夫婦と言われるわが国の現状において,130万組以上の不妊夫婦がいると推定されているが,このうち不妊医療の恩恵を受けている夫婦はわずか40万組弱と報告されている.この原因として,不妊医療に係る夫婦に対する,経済的,社会的な圧迫や制約があることが考えられている.さらに,わが国の不妊症予備軍は,思春期以降から生殖年齢にある男女の就業環境,加齢,性行為感染症,生活習慣病などにより,現在の不妊夫婦の数より,何倍も増加傾向にあると思われるが,未だ,わが国において,不妊予防活動における積極的な取り組みは存在しない.不妊予防に関心をもつことが,女性の一生を通して,生殖医学,不妊医学,女性健康医学に基づく,不妊症の病因,疫学,診断,治療および不妊予防法の開発,教育,啓蒙等に関する事業を促進し,これらの進歩と発展を基として,国民の健全で健康な生殖機能保持と増進を促し,わが国の少子化抑制,医療費削減など,国民の医療福祉に寄与することは間違いない.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 43(2)
110-110, 2006
|