|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第112回学術集会(平成18年10月29日(日))
【シンポジウムII−1】
2.不妊診療からみた妊娠・分娩予後の改善
柴原 浩章
自治医科大学医学部産科婦人科・助教授
総務省によると本邦の「人口減少社会」到来は間近に迫る.この少子化問題と関連し,不妊カップルの妊娠率向上に期待が集まる.われわれ産婦人科医の使命は健康な子供を誕生させることであり,そのために生殖治療から周産期医療への最適な連携が望まれる.現状において解決すべき課題は,大きく不妊治療の質的内容と,不妊治療の結果が周産期医療にもたらす内容に分類できる. 1)不妊治療の質的課題 妊娠成立例に占める一般不妊治療の割合は約70%,残りはARTによる.できる限りGn製剤やARTに頼らず治療することは,副作用予防の観点からいまだ重要な課題である.歴史的にはART導入当初の低妊娠率(10%未満)がまず克服すべき課題であったが,ICSIによる受精率向上,培養液改良による胚盤胞獲得などにより妊娠率は飛躍的に向上した.そこで多胎増加という課題も生じたが,余剰胚の簡便な凍結保存技術が開発され,その普及が期待されている. 2)不妊治療の結果が周産期医療にもたらす課題 日本産科婦人科学会・会告に基づき,周産期予後改善のためARTにおける移植胚数を上限3個とした場合,四胎以上の発生に歯止めがかかった.続いて品胎予防のため,自主的に上限2個または選択的2個胚移植を採用する施設が増加した.さらに一部では双胎予防のため最良好胚を1個だけ移植する方針を選択する場合もある.ただしコクランの見解(2005年)では,妊娠率の観点から2個移植に比し1個移植のルーチン化を推奨するに至っていない. すなわち移植胚数の制限を積極的に適応すべきは,形態良好な胚を得た場合の着床能が高い女性が対象である.これに対し例えば40歳以上の高年齢女性やART反復不成功者を対象に,2個または1個への移植胚数制限を実施するのはART治療のqualityを損ねる危険性があり,慎重な対応が必要と考える. 以上のように不妊治療による妊娠率向上と多胎妊娠の増加は表裏一体であるが,治療成績の向上が本来意味するところは,あくまでも単胎妊娠の成立である.その観点からすれば,本邦における不妊治療の現状は必ずしも満足できる水準ではない.近未来に不妊治療による多胎妊娠が撲滅するようなガイドラインの確立と,それを会員が遵守する制度の構築が必要といえる.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 43(3)
249-249, 2006
|