|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第112回学術集会(平成18年10月29日(日))
【シンポジウムII−2】
1.子宮頸部病変における機能温存手術を中心に
仲村 勝, 藤井 多久磨, 平尾 薫丸, 中川 博之, 福地 剛, 塚崎 克巳, 青木 大輔
慶應義塾大学医学部産婦人科
若年子宮頸癌の増加や少子化問題にゆれる本邦において妊孕能が注目され,子宮頸癌と診断されても一定の条件を満たせば機能温存をめざした手術が要求されてきている.子宮頸部初期病変における円錐切除術はその代表例であり,当院でもこれまで1500例以上の子宮頸部レーザー円錐切除術(円切)を施行している.特に子宮頸部初期病変の好発年齢は出産年齢にもあたり,診断的意義に加え,妊孕能を温存する治療的意義が求められている.1989年から2005年に当院で円切を施行した約1700例の経験からも高度異形成,上皮内癌,Ia1期扁平上皮癌の断端陰性例は治療的円切のよい適応と考えている.一方,腺系病変に対する円錐切除術による治療の限界については議論されるところであり,当院でも状況により追加手術を行うなどして慎重な対応をしている. 円切既往例における妊娠・分娩転帰(前期破水,切迫早産の有無)について検討してみると,円切施行後の妊娠例では28%に早産をみとめ,対照群(6.4%)に比べ有意に早産率が高かった.その中でも前期破水を伴うものを多く認めたため,早産のリスクに対して慎重な管理が必要と考えられた.一方,妊娠中に円切を施行した57例についても妊娠への影響を調べたところ,妊娠中の円切施行例においては,早産が多い傾向はあるものの有意差は認めず(円切群17.5%,対照群8.8%),頸管縫縮術の有無によっても有意差を認めなかった. 臨床進行期Ia2期あるいはIb1期症例に対する妊孕能温存治療の選択肢の一つとして,広汎性子宮頸部摘出術があり,当院でも若干の自験例を経験している.その場合,腫瘍の広がりを術前に正確に評価するためのツールが治療方針決定の際に必要である.当院では子宮頸部浸潤癌の術前評価としてMRIの診断精度向上を目的とした新しい撮像法の工夫を試みており,5mm以下の間質浸潤についての評価も可能となってきている.本手術の適応と考えられる「腫瘍が小さくリンパ節転移陰性の症例」は非常に限定されること,術後追加放射線療法が妊孕能の喪失だけでなく卵巣機能の喪失も意味することから,充分なインフォームドコンセントが必要である. 子宮頸癌に対して妊孕能温存を希望する症例は今後も増加すると思われるが,その適応拡大は慎重であるべきと考える.病理学的検索の結果から考えられる再発リスクの評価を行い,治療成績を損なわずにかつ,治療後のQOLを尊重しながら,適切な治療法を選択することが今後ますます重要になると考えられる.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 43(3)
251-251, 2006
|