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第112回学術集会(平成18年10月29日(日))
【ランチョンセミナー2】
2.女性のライフイベントと骨血管相関の関わりについて
太田 博明
東京女子医科大学産婦人科・教授
65歳以上の高齢者が2005年には20%に達し,わが国では本格的な超高齢社会となっている.このような人口構成の高齢化に伴い,介護や寝たきりが医療のみならず社会的にも重要課題となっていることは周知のことである.この介護や寝たきりにも性差があり,介護要因において男女とも最も多いものは脳血管障害で,次いで女性では骨折・転倒,痴呆,関節疾患が,男性では割合は女性の1/4〜1/5となるが,痴呆,骨折・転倒,関節疾患の順となっている.すなわち,介護要因として脳血管疾患に次いでは骨・関節疾患が重要な位置づけを占める.一方,脳血管障害や骨粗鬆症・骨折は寝たきりの要因としても50%以上を占めるという. 血管系疾患と骨・関節疾患は一見,無関係のようにみえるが,最近の研究から,骨粗鬆症に罹患していること自体が,心血管系疾患の危険因子である喫煙,糖尿病,高血圧とは異なる独立した危険因子であることが実証されている.さらに破骨細胞調節因子であるRANKLとOPGは動脈硬化や血管石灰化にも各種の関与をしていることが基礎研究から示されている.また大動脈の年間あたりの石灰化率が高いと年間あたりの骨密度減少率は4倍も大きいという具体的な臨床研究も報告されている. 一方,エストロゲンの低下が動脈硬化を促進し,エストロゲンを補充するとそれが阻止されることもわれわれは自験データを有している.またエストロゲンの低下に伴う閉経周辺期からの骨密度の低下は著しく,エストロゲンの補充により骨量の維持のみならず増加を来すことは最近のWHIでも明らかである.さらに,関節においてもエストロゲンの低下は軟骨代謝異常を来し,軟骨基質の破壊から,関節炎・変形性関節症を来すと考えられている. 以上のごとく,女性のライフイベントにおいて血管系疾患と骨・軟骨代謝異常である骨粗鬆症および変形性関節症は介護や寝たきりの要因のかなりの部分を占めている.このような背景から,特に女性の場合には血管系と骨と関節の健康を守ることは健康寿命の延伸となり,健全老化を目指す上での基本的な考え方となる. 当日のセミナーでは骨血管相関について自験データを交えながら多方面からアプローチし,女性のライフイベントとの関わりについて述べてみたい.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 43(3)
257-257, 2006
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