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第114回学術集会(平成19年10月14日(日))

【シンポジウムII】
3.再発卵巣癌の治療戦略


高倉 聡
東京慈恵会医科大学産婦人科


 “究極”の卵巣癌治療戦略は再発させない初回治療法の開発であるのは言うまでもない.上皮性卵巣癌の予後はタキサン製剤導入により改善されたが,進行癌の長期予後は依然不良である.近年,現在の標準初回化学療法であるTC療法をコントロールアームとした5アーム(4312症例)にてGOG182-ICON5が行われたがいずれの試験アームでもTC療法を上回る生存率は認められなかった.現在も腹腔内化学療法,術前化学療法や分子標的治療薬(ベバシツマブ)併用などによる試みが国内外で実施もしくは計画中であるが,それらの結果が判明するのはまだ大分先のことである.
 現時点の標準治療では進行卵巣癌の多くは臨床的に寛解しても再発し,再発例の予後は不良である.GOG158は初回手術がoptimalであった症例が対象とされているがTC療法群で73%,TP療法群で76%の症例で再発をきたし,再発後生存期間中央値は23ヶ月であり5年以上の生存は稀であるとされている.我々は予後が不良である再発卵巣癌患者を治療する場合どのような考え方で臨めばよいのであろうか.日本婦人科腫瘍学会卵巣癌治療ガイドライン改定案には「再発卵巣癌は根治が困難で,治療の目的はQOLの維持,症状の緩和を第1に考え,次に延命効果について考慮されることが多い.そこで治療の限界を十分に認識してその適応・内容を厳密に検討すべきである.」と記載されている.
 再発卵巣癌の緩和すべき症状として腹水貯留による不快感がある.当院で1996年から7年間に終末期管理を行った卵巣癌71例の内,腹水貯留を認め不快感を伴っていた30例に症状緩和目的で腹腔穿刺を行い,その内の21例に緩和目的のプラチナ製剤腹腔内投与を行った.不快感が軽快したのは穿刺のみでは9例中2例であったのに対し,腹腔内投与例では21例中15例であった.また,モルヒネ製剤の減量ができた例が腹腔内投与例で7例認められた.治療による延命がほとんど期待できない症例ではこのような緩和化学療法も含めたbest supportive careを検討すべきであろう.
 一方,延命がある程度期待できる症例ではQOLの維持,症状の緩和を考えつつ延命をはかる治療が求められる.プラチナ製剤感受性例では同剤を含む併用化学療法が推奨され,TC療法やDC療法などが選択枝となる.ただし,感受性例でもサルベージ化学療法の効果は初回化学療法の効果を上回ることは通常ないことを考えるとQOLを維持するためには単剤への変更や投与量の減量も個々の症例に応じて考慮する必要がある.欧米ではプラチナ製剤無効・抵抗性例に対するサルベージ化学療法としてリポゾーマルドキソルビシン,トポテカン,ゲムシタビンなどが用いられている.本邦では未承認・保険適応外であり使用できない(しにくい)現状であったが,前2者は治験が終了し欧米と同程度の成績であったことから近い将来承認される見通しである.また,本邦では塩酸イリノテカン,ドセタキセル,経口エトポシドなどを単剤もしくは併用(CPT-CDDP,CPT-oralVP16,CPT-DTX,CPT-GMなど)で用いたサルベージ療法のP1/P2の知見が集約されている.本発表ではこれらの国内外の治療法を総覧しQOLの維持,症状の緩和を考えつつ延命をはかる治療を目指した臨床第三相試験について共に考える場としたい.


日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 44(3) 256-256, 2007


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