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第114回学術集会(平成19年10月14日(日))
【シンポジウムIII】
3.ロイコトリエン受容体拮抗剤―子宮内膜症の痛みと慢性炎症を抑制する機序―
今野 良
自治医科大学附属さいたま医療センター総合医学第2講座婦人科
【はじめに】私たちは子宮内膜症を免疫学的機構の関与した慢性炎症性増殖性疾患であると捉えて病態の解明にアプローチし,抗炎症治療戦略としてアラキドン酸カスケードを標的とする方法を検討している.ロイコトリエン(LT)受容体拮抗剤(LT-a)の子宮内膜症および月経困難症に対する治療の有効性評価を行った. 【研究方法】方法はprospective,randomized,placebo-controlled studyで院内倫理委員会の承認を得て施行した.月経困難症と診断され,エントリー後に発来した初回月経5日目からLT-a(モンテルカスト10mg/day)またはプラセボを連日服用し,その後2周期の月経痛セルフアセスメントを疼痛スケール(VAS)で記録した.投与前後のVAS,使用NSAID量,その他臨床所見を検討した.LT-a使用後2周期のVAS最高値平均かVAS値総数平均が使用前より半減以下の場合,あるいはNSAID服用数平均が使用前より半減以下の場合を有効と判断した. 【成績】63名のNSAID抵抗性患者がエントリーし,途中脱落7名,評価不適例5名で,評価対象例は51例(内膜症38例,非子宮内膜症13例)であった.51例の内訳はLT-a群24例,プラセボ群27例であった.有効率はLT-a群50%,プラセボ群は22%で,有意差が認められた(p=0.038).LT-a群のVAS平均は,治療前6.7から治療後4.8に減少した(p<0.005).内膜症性嚢胞のサイズ,腫瘍マーカー値には一定の傾向は認められなかった.副作用で試験中止したものはなかった. 【考察】ヒト内膜症組織ならびにラット内膜症モデルの遺伝子発現解析で,肥満細胞,好酸球,マクロファージからのケモカイン・サイトカイン分泌,線維化,血管新生,リモデリングに関する遺伝子の発現増加が見られた.子宮および子宮内膜症病変にはLTとそのレセプターが局在し,平滑筋収縮や慢性炎症に関与し,疼痛原因の一つであることが分かってきた.また,形態学的観察では炎症性増殖性病変の首座である間質(interstitium)で,異所的な平滑筋化生,神経新生がおきており,これが病変発症・進展,疼痛発生のメカニズムと考えている.LT-a無効例は喘息治療に見られるようなLT代謝酵素のSNPが関与しているものと考えている. 【結論】LT-aの使用によりVAS値減少,VAS値総数の減少,NSAID量の減少等が認められた.LT-aの子宮内膜症・月経困難症に対する疼痛軽減効果がprospective,randomized,placebo-controlled studyにより確認され,新たな治療選択肢の一つと考えられる. ロイコトリエン受容体拮抗剤は,1)臨床的には平滑筋収縮の制御による疼痛の緩和,2)病態学的には炎症抑制やリモデリング抑制効果が期待される.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報, 44(3)
260-260, 2007
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