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第115回学術集会(平成20年6月15日(日))
【ワークショップ1】
婦人科手術後の下腿リンパ浮腫に対する外科的治療(リンパ管―静脈吻合)
永竿 智久
慶應義塾大学医学部形成外科学専任講師
婦人科進行癌の手術治療においては,根治性を高めるために骨盤内リンパ節郭清が行われる.骨盤内リンパ節郭清に伴うリンパ節切除により,下肢より中枢に向かうリンパ流が阻害を受けるため,症例により下肢に浮腫が出現する場合がある.こうした浮腫はリンパ浮腫と称されている.リンパ浮腫は機能・整容の両面において患者の大きくQOLを損なうため,婦人科悪性腫瘍の外科的治療を行うに当たっては,副次的に発生しうる問題としてリンパ浮腫に充分な注意を払う必要がある. リンパ浮腫に対する対策としては予防が第一であり,術後早期よりストッキングやバンデージを使用して予防に努める必要性がある.近年においては本疾患に対する知識の普及により,早期に予防策が講じられるようになった.このため以前に比較するとリンパ浮腫の発生は減少傾向にある.また,仮にリンパ浮腫が発生した場合でも,比較的軽度な場合であれば,マッサージやバンデージによる保存的治療がある程度奏効する. しかし重度なリンパ浮腫症例はこうした保存的治療に反応することは期待できず,感染を反復しつつ増悪する場合が多い.このような難治性のリンパ浮腫症例に対し,われわれはリンパ管―静脈吻合による手術的治療を行っている. リンパ管―静脈吻合は,四肢の末梢リンパ管と細静脈を,微小血管吻合の技術を用いて吻合する手術である.リンパ系と末梢血循環系の間にバイパスを作成することで,末梢に鬱滞したリンパ液が血管内に誘導され,浮腫の改善を期待することができる. 形成外科においては外傷や組織修復を,複合組織の遊離移植を用いて再建する専門領域が存在する.遊離組織移植においては,移植組織の血流を保つために直径1〜2mmの動脈・静脈が吻合される.このためこうした専門領域は,マイクロサージェリーと称されている.リンパ管―静脈吻合もマイクロサージェリーの技術を応用したものである.リンパ管―静脈吻合において用いられるリンパ管・血管の口径は約0.5-0.8mmであり,吻合手技には熟練を要する.しかしリンパ管―静脈のバイパスが一旦形成されれば,著明な効果を上げうるので,リンパ浮腫に対する有効な治療法の一つであるとわれわれは考えている. 慶應義塾大学病院形成外科においては,2005年度よりリンパ浮腫に対してリンパ管―静脈吻合による治療を行ってきた.現在までに18例のリンパ浮腫患者に対してリンパ管―静脈吻合の手術的治療施行したが,うち14例に効果が認められた(著効例は10例). 本発表においてはわれわれが行っているリンパ浮腫治療の実際,そのバックグランドとなるマイクロサージェリーの紹介,ならびに婦人科治療に応用できる形成外科の知識に関して報告する.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 45(2)
108-108, 2008
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