|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第116回学術集会(平成20年11月29日(土),30日(日))
【パネルディスカッション】
周産期医療の新たな構築を目指して 神奈川県周産期救急システムの現状と課題
石川 浩史
神奈川県立こども医療センター産婦人科
神奈川県では1981年に新生児救急医療システムが発足,さらに85年には産科救急医療システムが発足し,新生児とあわせて神奈川県周産期救急システムとして今日に至っている.産科救急症例が発生した場合,発生元の医療施設は,当該地域を担当する基幹病院(県内8施設)に連絡する.基幹病院側では,自院にて対応可能であれば自院への搬送を依頼し,自院での対応が不可能の場合には,基幹病院の責任において他の基幹病院や中核/協力病院(県内25施設)を検索・斡旋するシステムであった. しかしながら周産期環境の悪化とともに,基幹病院における検索・斡旋の負担が増加し,産婦人科医師(夜間であれば当直医)が長時間にわたって電話対応に拘束される事態が問題となってきた.その打開策として,神奈川県産科婦人科医会と県とで協議交渉を行い,検索・斡旋業務の一部を神奈川県救急医療中央情報センター(以下,情報センター)に委託するシステムが2007年4月より開始された.情報センターは神奈川県との委託契約に基づいて神奈川県医師会が82年より管理運営している組織であり,一般救急患者の二次・三次応需情報を,医療機関および救急隊に対して提供することを目的としている.周産期救急システムの検索・斡旋業務の一部委託にあたっては,担当職員(非医療職)の研修や各医療機関への協力要請などの準備を行った. この結果,基幹病院の産婦人科医師の負担は明らかに軽減した.非医療職である情報センター担当職員と医療機関との間の情報連携の不手際などが懸念されたが,実際にはほとんど問題になっていない.また,県内の産科救急応需情報を情報センターが一元的に管理することで,周産期環境の困難さを県当局と共有できるようになったことも,メリットのひとつである. しかしながら検索・斡旋に時間がかかるという問題点は依然として解決しておらず,患者および一次施設の側から見ればメリットが実感されにくい状況が続いている.県内医療機関にて収容不可能な場合にはやむを得ず県外(主に東京都内)の医療機関に収容を依頼しているが,この場合は従来通り基幹病院の産婦人科医師が検索・斡旋を行っているので,基幹病院にとっても負担が消滅したわけではない.また医療機関間の転院搬送を対象としているので,近年問題になっている妊婦健診未受診妊婦の飛び込み分娩にも対応していない.これらを改善してゆくことが今後の課題である.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 45(3)
217-217, 2008
|