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第116回学術集会(平成20年11月29日(土),30日(日))
【スポンサード教育シンポジウム】
子宮頸癌は予防できる―ワクチンと検診の精度管理― 子宮頸癌とHPV―頸癌のpathogenesisとHPVの疫学―
吉川 裕之
筑波大学大学院人間総合科学研究科婦人周産期医学
子宮頸部の扁平上皮と円柱上皮の境界であるSC-junctionにおけるoncogenic HPVの感染により,予備細胞の異型増殖をきたし,前癌病変であるCINを発症する.CINの一部は進展して,CIN3を経て,浸潤癌となる.このようにHPV16,HPV18のようなoncogenic HPVは子宮頸癌の発生過程で重要な役割を演ずる. HPV感染は,女性の生涯感染率80%というありふれた感染であるが,ごく一部が持続感染を経て,子宮頸癌やその前駆病変であるCINとなる.CINにも自然消退が起こるが,これは細胞免疫による.臓器移植後やHIV感染など免疫不全で子宮頸癌発生が多い.一般ではHPV特異的免疫とHLAが関係している.他のウイルス感染と比べるとviremiaを起こさず,組織へのダメージもなく,免疫が成立しにくい.HPV感染そのものが免疫から逃れる術を知ったウイルスである.扁平上皮表層ではHPV粒子が増殖した変性細胞(koilocyte)も出現するが,基底細胞,傍基底細胞ではepisomalもしくintegratedという形で,ウイルスは細胞にダメージを与えずに両者のDNAが共存している.基底細胞,傍基底細胞におけるE6とE7の持続的で制御されない発現が腫瘍病変の発生および維持に必要である.E6/E7発現は,p53やRbというがん抑制遺伝子の機能をブロックし,細胞周期停止を遅らせ,細胞分裂機構を妨げ,多くの染色体異常,染色体不安定性をきたし,子宮頸部発癌過程が始まる.P16遺伝子産物の強い発現は制御されないE7の発現を示している.E2遺伝子が中断されるように.HPV DNAが細胞DNAに組み込まれると,E2によるE6/E7発現の抑制機構が消失し,E6/E7の発現は亢進する.HPVは元来,免疫から逃れる機能を持っている.E6は上皮内のdendritic cellsと上皮細胞との相互関係を妨げ,E6/E7はインターフェロンの産生や反応性をブロックする. 現在,HPV16,HPV18のVLP(virus-like particle)ワクチンが世界中で接種が始まり,本邦でも来年度には承認されそうである.予防が進めば,癌化のメカニズムなどはどうでもよい時代が来るかもしれない.しかし,少なくとも数種類のHPV型に対応できるワクチンが登場するまでは,HPVによる癌化過程に深い理解を持つことが必要である.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 45(3)
222-222, 2008
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