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第117回学術集会(平成21年6月14日(日))
【シンポジウム1】
産科における超音波診断 前置胎盤・癒着胎盤
長谷川 潤一
昭和大学産婦人科助教
【目的】前置胎盤・癒着胎盤は妊娠中や分娩時に多量出血を引き起こすことが多く,正しい診断だけでなく,出血に関するリスクを事前に評価しておくことが重要である.妊娠背景および妊娠中の超音波所見によって,それらのリスク評価が可能かどうかを検討する目的で以下の研究を行った. 【方法】検討1(前置胎盤の出血に関する検討):当院で分娩した前置胎盤143例において,多量出血や前置癒着胎盤に関するリスク因子を後方視的に検討した.リスク因子は,高齢(35歳以上),経産,既往帝切,妊娠20週及び分娩直前の超音波所見:前壁胎盤付着,前回帝切創部付着,全前置胎盤,Placenta lacunae,clear zoneの欠如,頚管筋層のsponge like echo,辺縁静脈洞の怒脹,頚管長短縮(25mm未満)とした.a)妊娠中の出血:コントロール不良の出血のために待機できず帝王切開を施行した多量出血群,妊娠中に出血があったが待機できた警告出血群,予定帝切まで出血の無い対照群に分けてリスク因子の頻度を検討した.b)帝切中の出血:帝切時の多量出血群(2500ml以上)と対照群に分けてリスク因子の頻度を検討した.検討2(癒着胎盤の画像診断に関する検討)a)前置癒着5例,常位の癒着胎盤7例,癒着を認めない前置胎盤138例と正常胎盤610例における超音波所見の出現率を求めた. 【結果】検討1-a)症例数は多量出血群24例(17%),警告出血群57例(40%),対照群62例であった.予定帝切の頻度は,警告出血群,対照群で44%,97%,であった.多量出血群,警告出血群で対照群に比べ,有意なリスク因子は妊娠20週の全前置胎盤のみで,それぞれの群で55%,88%,44%に認められた.1-b)帝切時の多量出血群28例と対照群109例の多変量解析において抽出された多量出血に強く関連する因子とそのオッズ比(95%信頼区間)は,高齢3.4(1.0-10.5),sponge like echo 3.5(1.1-10.9),頚管長短縮11.0(2.9-41.0)であった.検討2)前置癒着胎盤,常位癒着胎盤,前置胎盤,正常胎盤における超音波所見の出現率はそれぞれ,placenta lacunae 60%,14%,15%,9.5%,clear zoneの欠如60%,29%,3.8%,0.6%,既往子宮手術創部付着40%,43%,2%,0%であった. 【結論】全前置胎盤は妊娠中の出血の頻度を増加させるが,詳細な超音波検査によっても妊娠中の出血の予測は困難と思われた.一方,帝切時の多量出血には,高齢,sponge like echo,頚管長短縮が,癒着胎盤の予測にはclear zoneの欠如や子宮手術創部付着などが因子として強く関連した.これらの因子は絶対的なものではないが,分娩時の多量出血に対する準備に役立つものと思われる.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 46(2)
129-129, 2009
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