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第117回学術集会(平成21年6月14日(日))

【シンポジウム2】
不育症の診断と治療
子宮奇形の検査と治療


竹下 俊行
日本医科大学産婦人科教授


 胎生期に発生したミューラー管は,@正中方向への伸展,A融合,B内腔形成,C中隔吸収といった過程を経て卵管・子宮・腟上部へと分化する.この発生分化のいずれかの過程に障害を来すと子宮奇形を生ずる.子宮奇形は,抗リン脂質抗体症候群や夫婦染色体異常と共にエンビデンスの確立した不育症原因のひとつである.
 子宮奇形の頻度は,Grimobizisらによると一般女性で4.3%,不妊症患者―3.4%,不育症―12.6%と報告されている.当科不育症外来に登録された患者のうち,子宮卵管造影(HSG),超音波検査,MRIにより正確な形態診断が可能であった355例の分析では,弓状子宮を含めた子宮奇形の頻度は14.6%に上った.
 古今,様々な分類法が提唱されているがいずれも完全ではない.AFS(American Fertility Society)は1988年に子宮形態異常の新分類を発表し,現在では多くの場合この基準に基づいて分類が行われている.上記の当科不育症外来患者での内訳は,弓状子宮9.0%,中隔子宮3.7%,双角子宮1.1%,単角子宮0.85%で,重複子宮は認めなかった.この中で不育症に最も関連が深いのは中隔子宮であるといわれている.流産率は諸家の報告によると,中隔子宮では65〜76%であるのに対して,双角子宮では25〜32%であるとされる.弓状子宮は一般に妊娠転帰に影響しないと考えられているが,当科で弓状子宮と診断された不育症患者を分析すると他に不育症原因を有する症例が多いことから,単独では不育症の原因とはなりにくいが第2,第3の因子として不育症に関与している可能性が示唆された.
 子宮奇形の診断はHSG,超音波断層法,MRI,子宮鏡,腹腔鏡などを用いて総合的になされる.中隔子宮と双角子宮は妊娠予後や手術法が異なるため,慎重に鑑別する必要がある.3D超音波やMRIの所見を総合して診断する.
 子宮奇形に対して古くから外科的介入(子宮形成術)が行われてきた.双角子宮に対するStrassmann手術,中隔子宮に対しては古典的なJones and Jones手術,Tompkins手術に加え,最近では子宮鏡下中隔切除術(TCR)が行われ,いずれも術前に比して飛躍的な妊娠予後の改善が報告されている.しかし,これらの報告では子宮奇形診断後の無手術観察例を対照群としているわけではなく,エビデンスレベルは高いとはいえない.Kirkらは手術群と無手術群の比較を行い,手術群の生児獲得率が僅かに高かったものの統計学的差違を認めなかった.このことは,子宮奇形と診断しても手術に踏み切るには慎重であらねばならないことを意味するが,当教室では中隔子宮に対してTCR,幅の広い中隔子宮と一部の双角子宮に腹腔鏡補助下子宮形成術と低侵襲手術に心がけ良好な成績を得ているので,症例を呈示しその有用性について議論したい.


日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 46(2) 132-132, 2009


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