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第117回学術集会(平成21年6月14日(日))
【シンポジウム2】
不育症の診断と治療 抗体検査,へパリン療法
杉 俊隆1,2)
東海大学産婦人科非常勤教授1) 杉ウイメンズクリニック不育症研究所2)
不育症患者における抗phosphatidylethanolamine(PE)抗体および抗第XII因子抗体の病原性として,我々は既に血小板活性化を報告してきた.しかしながら,多くの初期流産は臍帯胎盤循環が始まる前に起こる事もあり,単純に胎盤血栓では流産の説明がつかず,血液凝固系亢進以外の病原性の存在が示唆されている.そこで我々は新たに,抗PE抗体および抗第XII因子抗体の胎盤形成阻害による流産と,その治療としてのヘパリン療法という全く新しい仮説を提唱したい. 高分子キニノーゲンは,heavy chainとlight chainに分けられ,その間にブラジキニンが存在する.高分子キニノーゲンが分解されると,ブラジキニンを放出し,heavy chainとlight chainより成る二本鎖キニノーゲン(HKa)になる.最近の研究で,HKaは血管新生を阻害し,ブラジキニンと一本鎖キニノーゲンは血管新生を促進すると報告されている.高分子キニノーゲンがヘパリン,すなわち肥満細胞由来のグリコサミノグリカンに結合する事は以前より知られていた.最近,高分子キニノーゲンはそのドメイン3のLDC27(Leu331-Met357)およびドメイン5(His479-His498)を介して血管内皮細胞のグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸とコンドロイチン硫酸に結合する事が解明された.細胞に結合した高分子キニノーゲンは,グリコサミノグリカンが高分子キニノーゲンを分解から守るため,ほとんどが血管新生を促進する一本鎖である.さらに,LDC27に対する抗体は高分子キニノーゲンがヘパラン硫酸に結合するのを阻害する事が報告された.我々はすでに,抗PE抗体と抗第XII因子抗体がLDC27を認識する事を報告しているので,この事は,抗PE抗体と抗第XII因子抗体がキニノーゲンのヘパラン硫酸への結合を阻害する事を強く示唆している.高分子キニノーゲンが細胞表面のグリコサミノグリカンから離れると言う事は,高分子キニノーゲンが分解されてHKaとブラジキニンが生じると言う事である.ブラジキニンの半減期は30秒,HKaの半減期は9時間であるので,抗PE抗体と抗第XII因子抗体があると結果的にHKaが生じ,胎盤の血管新生を阻害し,流産を引き起こす可能性がある.そして,ヘパリンは高分子キニノーゲンを分解から守る事により,胎盤血管新生を促進し,胎盤形成を助ける事により,流産を防止するのである.さらに,ヘパリンはin vitroでは抗PE抗体の抗体価を下げる作用もあり,血液凝固系を介さない作用機序も示唆されている.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 46(2)
133-133, 2009
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