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第117回学術集会(平成21年6月14日(日))
【シンポジウム2】
不育症の診断と治療 原因不明習慣流産患者に対する夫リンパ球免疫療法〜検査と治療の実際,およびその作用機序の検討〜
川口 里恵1), 田中 忠夫2)
東京慈恵会医科大学産婦人科助教1) 東京慈恵会医科大学産婦人科教授2)
妊孕現象は最も成功した自然の同種移植モデルと言われており,宿主(母体)と移植片(胎児)間の免疫応答(免疫学的妊娠維持機構)の破綻が流産に繋がると推測されている.免疫学的妊娠維持機構として,immunosuppression,immunotrophism,immunotoleranceなどの概念が示唆されており,未だそれらの全容は明らかではないが,1987年,Wegmannらが提唱したimmunotrophismの考えは重要である.これは,母児間の積極的な免疫応答の結果,着床の局所において分泌亢進した各種サイトカインや成長因子が絨毛組織の発育・増殖の促進をもたらし,妊娠維持に寄与するという説である.また,液性免疫反応を誘導する2型ヘルパーT細胞(Th2)関連の免疫反応が,細胞性免疫反応を誘導する1型ヘルパーT細胞(Th1)関連の免疫反応に対して優位になることが妊娠維持に有利に作用することも知られている. 妊娠成立後,このような免疫反応が適正に惹起されない習慣流産症例に対して,その免疫応答を誘導することを目的として,夫あるいは第三者リンパ球療法,γ-グロブリン療法,OK-432投与などの免疫療法が行われている.夫リンパ球療法(LIT)は,腎移植前の輸血(donor specific transfusion)が移植腎の生着率を向上させるということにヒントを得たものであり,約25年前から行われている.しかし,LITの作用機序は必ずしも解明されておらず,また多くのRCTが行われているが,その有効性についても結論は得られていないのが現状である.加えて,血液成分を投与することによる安全性の問題もあり,それらの点が解決されるまで,米国ではFDA勧告により禁止されている.しかしながら,症例選別が必ずしも十分になされていない諸外国からのRCT結果をそのまま受け入れることはできないと思われる. 当科では,本学倫理委員会の承認のもと,習慣流産スクリーニング検査(各種自己抗体検査を含む)で異常が見出されない原因不明症例に対して,夫婦間MLC,患者のNK細胞活性・Th1/Th2比・抗HLA抗体を検査し,その結果によりLITの適応症例を選別している.妊娠維持成功例は約70%であり,細胞性免疫優位から液性免疫へのシフト,遮断抗体による細胞性免疫の抑制などの知見を得ている.また,抗リン脂質抗体をはじめとする自己抗体の誘導が約20%に認められたが,それらは1年以内に陰転化した.患者ならびに新生児に対する影響は認めなかった. 本シンポジウムでは,検査による症例選別ならびに治療法の実際,治療成績,そして現段階で考え得るLITの作用機序について述べたいと考えている.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 46(2)
134-134, 2009
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