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第117回学術集会(平成21年6月14日(日))
【シンポジウム3】
婦人科癌における緩和医療 婦人科癌の緩和ケア
助川 明子
横浜市立大学産婦人科助教
2005年の人口動態統計によると婦人科癌による死亡者数は,子宮頸癌2465人,子宮体癌1459人,部位不明の子宮癌1457人,卵巣癌4467人と卵巣癌では特に年々死亡者数が増加している.初期の婦人科癌は治療により高い5生率を得ていることから,婦人科癌罹患者はさらに多く存在している.WHOは,生命を脅かす病にかかったその早期から行われる必要があると緩和ケアの概念を示している.私たち婦人科癌の治療医がどう緩和ケアに係わっていくことができるか検討を試みた. がん患者は,がんの診断・治療,治療後の合併症,再発,終末期と,その治療過程の中で多くの苦痛を抱えている.当院で施行した卵巣腫瘍手術患者の研究では,「がんかもしれない」と説明を受けて手術に臨む患者の不安は高く,33.3%に適応障害が発症したことが明らかとなった.自己記入式の心理検査であるState-Trait Anxiety Inventory日本語版(以下,STAI)を用いて,状態不安(現状況下での不安の高さ)を調べると,術前の不安は術後診断に関わらず高かった.術後良性腫瘍であった患者の不安は速やかに低下するのに対し,卵巣癌と診断された症例ではスコアの低下はみられるものの高い値で推移していた.がんと診断される前の「がんかもしれない」と説明を受けた時点で,患者が高い不安を有していることに留意して診療を行う必要があると考えられる. がん患者の47%に何らかの精神障害を合併し,そのうち8%がうつ病であると報告されている.しかし,がん患者のうつ病は,がんの治療中だから落ち込んで当たり前と,見逃されることが多いともいわれている.がん患者の積極的抗がん治療中にPTSDを発症し,治療の継続が困難と考えられたが精神科医師との協同診療体制を取り適切に介入したことで治療を継続することができた婦人科癌の症例を経験した.不眠や咽頭違和感などの症状がきっかけとなり診断に至ったが,ふだんから協同診療体制をとっていることで,見逃されがちな症状を見出し,適切な時期にコンサルトできたと考えている. がん治療が終了し寛解となった患者でも,治療の合併症でQOLの低下がみられる場合がある.子宮頸癌IIb期の放射線治療後,非担がんながらも膀胱腸ろうのために人工肛門造設術を受け,常に存在する痛みや血尿のためQOLが低下した状態にある症例を紹介する.身体的・精神的な症状が多彩にあり,緩和ケアチームと協同で診療している. 婦人科癌患者の緩和ケアは,がんを疑われた当初から終末期に至るまでどの段階でも必要であり,痛み,精神的苦痛,社会的な問題など対処すべきことは多様である.婦人科医が主体的にかかわっていく必要があることはもちろんであるが,病棟や外来看護スタッフや緩和ケアチームなど多職種の協同診療体制を持つことも重要である.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 46(2)
135-135, 2009
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