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第118回学術集会(平成21年11月7日(土),8日(日))
【シンポジウム1】
Reproducing産婦人科医 大学における産婦人科後期研修医(専攻医)養成コースの再生
長田 久夫
千葉大学医学部附属病院周産期母性科
わが国の産科医療は危機的状況に瀕しているが,その最大の原因は現場で働く産婦人科医師の不足にある.したがって,現有の人的資源を最大限に活用し,かつ人材の離脱を防ぐこと,そして何よりも新たな人材確保を積極的に行うことが必要とされる.その第1歩として,魅力ある産婦人科後期研修医(専攻医)養成プログラムを提供し実践することが重要なのは言うまでもない.本演題では,大学における産婦人科後期研修医養成コース再生に向けての様々な工夫について,千葉大学での具体例を示しつつ概説する. 医学部入学から専門医取得に至るまでには長期間の養成システムが不可欠であり,1施設のみですべてを担うことは困難であるとともに医師が多様な経験を積むためには好ましくない.したがって,とくに後期臨床研修では,大学病院や地域の多様な医療機関をローテートしながら経験を積むことによって,医師としてのキャリア形成が可能となるような医師養成システムを構築することが必要である.その経過の中で,大学病院は自ら積極的に専門医養成の場の提供や養成プログラムの充実を図った上で,地域の医療機関等と連携し,このような医師養成システムの構築に中核的な役割を果たすことが求められる.また,学会等とも連携しながら,研修内容の標準化等も含めた研修プログラムの改善・充実を図ることが望まれる. 一方で,大学病院が安定した運営を行っていくために,臨床系の教員は診療に多大な時間を割いている.とりわけ産婦人科では,後期研修医の指導医となるべき年齢層の医師が,診療の負担で疲弊してしまうような状況も頻発している.このため,とくに負担が大きい中間層の医師に対して,給与面でのインセンティブを与えるなどの支援策や待遇改善が求められる. また,女性医師の比率は年々増加し,現在の産科医療を支える大きな力となっているが,経験年数が10年前後になると,その約半数が分娩取扱い現場から離脱している.このような状況の中,大学病院においても女性医師が継続的に就労できる環境の整備に取り組むことが必要である.そのためには,多様な勤務形態の確保,時間外勤務の縮減,院内保育所の整備と利便性の向上など,出産や育児など多様なライフステージに応じて切れ目なく働くことが可能となる環境を整備することが必要である.さらに,育児休業制度の活用・充実を図るとともに,育児休業から円滑に職務に復帰するための環境整備も必要である. 当科では,文部科学省「医師不足分野等教育指導推進事業」の一環として,平成19年度より複数の専任教員を雇用し,当大学病院と関連病院群に所属する研修医と医学部学生に対する教育指導の充実を図っている.後期研修医に対しては,日常臨床における指導の他に,研修開始から毎週全スタッフが交代で講師となり基本事項を学習するスタートアップセミナー,研修プログラム内では充足できない課題を週末に徹底学習するレベルアップセミナー,複数の研修病院をWeb会議システムで結び多方向の情報交換を可能にすることによって,各研修医がそれぞれの研修先に居ながら共通の症例やテーマでディスカッションできるWebカンファレンスを実施している.また,関連学会での発表や地域の研修会への参加を推奨するとともに,ALSOプロバイダーコース(産科救急)やNCPR一次コース(新生児蘇生)などのシミュレーション教育に重点を置いた講習会を開催している. 現在,日本産科婦人科学会関東連合地方部会に所属する各大学を対象に,後期研修に関するアンケート調査を依頼するため準備中である.シンポジウムにおいては,この結果も併せて報告する予定である.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 46(3)
238-239, 2009
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