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第118回学術集会(平成21年11月7日(土),8日(日))
【シンポジウム2】
産婦人科 in Emergency わが国の救急医療崩壊は再生可能か
島崎 修次
杏林大学医学部救急医学
昨今「たらい回し」や受け入れ医療機関が見つからず救急患者が死亡する事例が増えており,救急医療の崩壊とさえいわれている. 「たらい回し」と批判されているのは実は医療機関の受け入れ拒否ではなく,「受け入れ不能」状態なのであるが,その背景には救急診療は経営上のメリットが少ない上,医療訴訟のリスクのみ高い等の理由で救急をやめる医療機関の増加と医師不足がある. アメリカオレゴン州の衛生局の玄関には,医療の三原則を示した「オレゴン・ルール」が掲示されている.つまり@すぐ診てもらえる(free & easy accessibility)A医療の質が高い(high quality)B安い医療費(low-cost)であるが,国民は3つのうち2つは自由に選択できるが,3つともを求めるのは不可能であるというものである.これは至極当たり前のことで,アメリカの医療費が高いのは周知の事実であるが,日本では医療関係者の努力によってのみ,この3つの用件を全て満たしてきた.ところが,小泉政権下「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(いわゆる骨太方針)での罪深い医療費抑制政策がボディーブローとなり,救急医療,特に,日常的に深夜寝ずに働かざるを得ないいくつかの診療科,例えば,救急科,産科,小児科,さらには脳神経系,循環器系,外科系等の関連診療科は大きなダメージを被った.以上の様な状況下,ここに来て事の重大さに行政もようやく気付きはじめ,消防法の一部改正による救急車と救急医療機関の連携や,救急に係わる予算の倍増や地域救急医療計画とその解決に3000億を超える補正予算等の対策をはじめた.さらに東京都は,「救急医療の東京ルール」を立ち上げ,救急患者の迅速な受け入れのため,周産期救急も含め地域の救急医療機関の相互協力・連携をとるシステムを構築しこの8月末日より運用をはじめている. 救急医療は社会のセーフティーネットである.国民の命を救う,守る事を最優先課題とし,それに必要な急性期・救急医療の確保に対し,明確な法的根拠を提供する救急医療基本法の様な法律の立法化はぜひ必要である.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 46(3)
242-242, 2009
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