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第119回学術集会(平成22年6月13日(日))
【教育セミナー2】
産婦人科病理の基礎
坂本 穆彦
杏林大学病理学
“産婦人科病理”の中には医療・予防医学からベーシック・サイエンスにいたるものまでの様々な事項がふくまれるが,ここでは医療に直接関係をもつ病理診断にしぼってふれたい. 病理検査(診断)は組織診と細胞診から構成されるが,産婦人科領域での細胞診は擦過細胞診であるために,その診断学上の位置づけは補助診断にとどまる.そのため,とりわけ腫瘍ないし腫瘍関連疾患の診断の確定は組織診によるという立場がとられている. 組織診は診断名(病名)の特定を目指すが,腫瘍,とりわけ癌ではその組織型と浸潤の有無および程度の評価が診断報告書作成にあたっての中心である. 組織型の診断は,病変を構成している所見が複数ある場合には,それらのうちで最も量の多いもの(これを優勢なpredominant所見という)で判定を下すことが一般的である.しかしながら,これには例外があり,ある特定の所見があればその多寡にかかわらず診断名がつけられる場合がある.子宮頸部の粘液性腺癌は,腺癌細胞の粘液産生が確認されれば,それだけで判定の根拠とすることができる.子宮体部類内膜腺癌のG1〜3の判定は,優勢像で判定するという原則に従いつつ,それにさらに条件を加えたものである. 癌の浸潤の有無や程度の判定の基準は,臓器や病変により異なる対応がとりきめられている.浸潤の有無は上皮性悪性腫瘍である癌腫にのみ問われる.具体的には,癌の発生した上皮領域をこえて間質内へのひろがりを示しているか否かの評価である.最も明瞭な指標は両者の境界にある基底膜の破壊である.破壊が確認されれば浸潤とみなされる. 浸潤の有無のみならずその程度を判断する際には基底膜との関係ではなく,一定の判定方法による計測的な手法が用いられる.子宮頸部扁平上皮癌Ia期はその例である.さらに卵巣腫瘍においても粘液性腫瘍の浸潤の評価に際し,計測的手法がとられるようになった. 浸潤は放置すれば転移をひきおこすことになる.原発巣以外の部位で,原発巣と同様のあるいは類似の所見が確認されれば一般的には転移巣とみなされる.しかしながら,近年,卵巣腫瘍の腹腔内所見としてインプラントという概念が取りあげられ,癌の播種とは一線を画するものとしての扱いが要請されている. これらの用語や定義はいずれも標準化されたものを用いる必要があり,その役割を担っているのが各種「癌(腫瘍)取扱い規約」である.これらはいずれもWHO組織分類に準拠して作成されている.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 47(2)
197-197, 2010
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