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第121回学術集会(平成23年6月12日(日))

【教育講演2】
婦人科癌治療のEBM


深澤 一雄
獨協医科大学産婦人科


 エビデンスとは臨床研究による実証のことである.昨今では多くは欧米の大規模臨床試験から得られたエビデンスを基に,さらに本邦での臨床試験や実情を踏まえた診療あるいは治療ガイドラインが各領域で作成されている.婦人科癌領域でも2004年の卵巣がん治療ガイドラインを始めとして,2006年に子宮体癌,2007年に子宮頸癌治療ガイドラインが発刊され,3年毎に改訂されている. エビデンスに基づいた医療 evidence-based medicine(EBM)の概念が提唱されて久しい.従来の医療は理論や経験則に基づいて行われていたが,人間を対象とする医療は不確実であり,理論や経験則だけでは限界がある.EBMは個々の臨床問題を解決するにあたり従来の理論や経験則だけに頼るのではなく,患者の予後改善のために創られた臨床研究から得られたエビデンスを,患者の価値観を考慮して活用する実践法である.EBMは個々の患者の臨床問題を解決する一手法であり,どの患者にも一律に適用するものではない.また臨床研究の結果が統計学的に有意であっても,臨床上意味があるとは限らない.これらに対し的確な臨床判断を下すためには臨床経験が必要であり,EBMは医療者の経験を否定するものでも裁量権を制限するものでもなく,最善の個別化を重視した医療である.治療ガイドラインを正しく理解し利用することは,取りも直さずEBMを実践することである. 臨床研究も人間を対象に行う以上,不確実性がある.臨床研究の結果はバイアス,偶然,真実に分かれるが,EBMでは臨床統計学の手法を用いて,この結果を客観的な根拠にする.2群間の差を証明する統計学的検定では,バイアスがランダム化により最小化され,偶然が有意水準未満であるとき,2群間に有意な差があるとする.例えばAB2つの治療法の効果比較で,A法の治療効果が検定の結果有意によいとなった場合,すべての人に対してA法の治療効果があるように受け取りがちであるが,それは誤った解釈である.個人ではなく集団としてのA法の治療効果であることに留意しなければならない.従ってA法を行って効果がなかった症例を検討し,今後のEBMにフィードバックしなければならない.AB2つの治療法の効果比較で有意差がないとなった場合,両者の治療効果が同じであると結論づけられるわけではないことに留意しなければならない.本来A法の治療効果がよくても小さな差であれば,症例数がかなり多くなければ検出力が小さく有意差が出ない.その場合,A法を行って効果が得られると考える症例の選択が必要である.いずれにせよ当然のことであるが,個々の症例の検討が重要である. 治療ガイドラインから,婦人科癌治療のEBMについて考えたい.


関東連合産科婦人科学会誌, 48(2) 155-155, 2011


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