|
<< 学会誌へ戻る
<< 前のページへ戻る
第122回学術集会(平成23年10月30日(日))
【ワークショップ1】
妊娠中の放射線被曝の胎児への
影響についての説明は?
関沢 明彦
昭和大学医学部産婦人科
Answer
1.被曝時期と胎児被曝線量の確認が重要であり,被曝時期は,最終月経のみでなく,超音
波計測値や妊娠反応陽性時期などから慎重に決定し,説明する.(A)
2.受精後10 日までの被曝では奇形発生率の上昇はないと説明する.(B)
3.受精後11 日〜妊娠10 週での胎児被曝は奇形を発生する可能性があるが,50 mGy 未満
では奇形発生率を増加させないと説明する.(B)
4.妊娠10〜27 週では中枢神経障害を起こす可能性があるが,100 mGy 未満では影響しな
いと説明する.(B)
5.10 mGy の放射線被曝は,小児癌の発症頻度をわずかに上昇させるが,個人レベルでの
発癌リスクは低いと説明する.(B)
このガイドラインは医療被曝の影響について示している.医療被曝であれば被曝の妊娠
週齢を把握することは比較的に容易であり,実際の被曝量の推定は難しいものの最大被曝
線量の推定は可能である.被曝により妊娠週齢ごとに影響のリスクは異なるが,医療被曝
で妊娠初期に胎児奇形の発症と関与する50 mGy から100 mGy のしきい値を超えること
は実際問題殆どなく,医療被曝の影響を患者から尋ねられた場合,安全だという情報の根
拠を明示して説明することで,不要な不安を解消できると考える.
しかし,福島第一原発の事故に伴う被曝は,長期間に及ぶこともあり,また,居住地域
によって放射線量も異なることから個々の患者への個別化した説明は,難しいと思われる.
3 月11 日の地震4 日後の3 月15 日の東京周辺では1 時間当たり1 μSv 程度の放射線が観
測されている.この放射線量は,世界平均での大気,大地,宇宙などから発せられる放射
線から受ける被曝(自然被曝)が,1 年間に2.4 mSv といわれているので,3 月15 日の放射
線の状態で東京に100 日間いることで1 μSv×24 h×100 day=2.4 mSv と年間の自然被曝
線量に達する程度,いわば通常の3 倍程度の放射線を浴びるという計算になる.このこと
を考えると,現状が続く限り,妊娠中の胎児に影響が及ぶ可能性のある地域は限定的であ
る.また,短期間での被曝と長期間での被曝の人体への影響は異なると考えられ,同じ線
量の被曝であれば医学的には長期間かけての被曝の方が影響は明らかに少ない.また,内
部被曝による放射性ヨードの甲状腺への取り込みが話題になっている.甲状腺に取り込ま
れたヨードは30 日程度で半分の量が排泄され,また,放射性ヨード自体の半減期も約8
日である.そのことを考慮すると,日産婦学会(FDA)が推奨する妊婦のヨウ化カリウム
の投与基準となっている50 mSv を長い日数(年月)をかけて被曝したとしても健康被害は
出ないと考えられる.
以上のように今回の講演では,ガイドラインの説明に加え,原発事故に関連した被曝の
影響について妊婦にどのように説明したらいいのかなどについても言及する予定である.
関東連合産科婦人科学会誌, 48(3)
277-277, 2011
|