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第122回学術集会(平成23年10月30日(日))
【ワークショップ1】
HTLV-1の母子感染予防
濱田 洋実
筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻婦人周産期医学分野
成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia-:ATL)は予後不良の難治性白血病であり,HTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type-1:ヒトT細胞白血病ウイルス)はその原因となるレトロウイルスである.ATL患者の大多数は,母子感染に起因する成人キャリアからの発症例で占められている.したがって,HTLV-1の母子感染予防が重要であるものの,従来それらはキャリアが多い九州や沖縄地方を中心とした事柄であると理解されてきた.
ところが,平成20年の全国調査によって,日本全体でのキャリア数はほぼ横ばいであること,またキャリア全体に占める他地域在住キャリアが占める割合が増加し50%を超えることが明らかとなった.全国的な母子感染予防対策の必要性は日本政府も認識することとなり,昨年9月のHTLV-1特命チームの発足から始まり,10月にはHTLV-1抗体検査が公費負担の対象となる妊婦健診項目に追加されることが決定した.さらに12月にはHTLV-1総合対策がとりまとめられ,明けて本年はまさにわが国にとって「HTLV-1対策元年」となった.
ちょうど改訂時期にあたっていた産婦人科診療ガイドライン-産科編においても,これらに対応する形で,2011年版ではHTLV-1の母子感染予防に関連するCQ&Aの追加をはじめとした加筆修正が行われた.それらの記載に基づく推奨される診療の要点は以下のとおりである.
1)HTLV-1キャリアかどうかのスクリーニングを妊娠女性全員に行う
2)スクリーニングでHTLV-1抗体陽性結果が得られた女性については,必ず確認検査を行う
3)確認検査陽性の場合に,はじめてHTLV-1キャリアと診断する
4)その女性本人へのキャリアであることの告知は特に慎重に行う
5)医療者から家族への説明は,女性本人が希望した場合にのみ行う
6)経母乳母子感染予防の観点から新生児の栄養方法について以下の選択肢を呈示して,妊娠女性(とその家族)の自発的な栄養方法決定を支援する
i)人工栄養
ii)凍結母乳栄養
iii)短期間(3ヶ月以内)の母乳栄養
われわれ産婦人科医には,HTLV-1の母子感染予防のための適切な診療を行うことが求められている.
関東連合産科婦人科学会誌, 48(3)
281-281, 2011
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