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第123回学術集会(平成24年6月17日(日))
【ワークショップ1】
ステージング手術が行われた上皮性卵巣癌I期における補助化学療法の必要性
田部 宏
東京慈恵会医科大学附属柏病院産婦人科
早期卵巣癌(進行期I・II期)に対する補助化学療法の有効性をみた臨床試験としては,1990年代に行われた2つの大きなランダム化比較試験,EORTC-ACTION(n=448)およびICON1(n=477)があり,その2つの試験を合わせた解析で,5年生存率は経過観察群74%に対して補助化学療法群は82%と良好であり,有意差をもって補助化学療法群の方が予後良好である結果が得られている. ここで卵巣癌の進行期分類にはFIGO分類が用いられるため,外科的検索による病理組織診断が進行期診断にとって大事となる.すなわち卵巣内限局発育である卵巣癌I期と思われる症例に対しての基本術式は,単純子宮全摘術および両側付属器摘出術,大網切除術までとされるが,腹膜播種や後腹膜リンパ節転移の有無を調べるステージング手術(腹膜生検や骨盤,傍大動脈までのリンパ節郭清)を追加施行した症例の中にはアップステージング(骨盤内への腹膜播種があればII期,骨盤外への腹膜病変や後腹膜リンパ節転移が認められればIII期)となる症例がでてくることになる. また本邦における卵巣癌I期の5年生存率は90%以上とする報告が多い.その理由として本邦では欧米に比べステージング手術を安全に施行出来る合併症の少ない患者の割合が多いことや,ステージング手術を行うことのできる婦人科腫瘍専門医が多いことなどが挙げられる.結果的に本邦ではより正確にステージングがなされたI期となっているため予後良好になっていると考えられる. ステージング手術を施行し卵巣癌I期と診断された対象群に対しての補助化学療法の有効性に関してはEORTC-ACTIONでサブセット解析されておりステージング手術を施行した群(全症例の34%)に限ると経過観察群と補助化学療法群の全生存率に有意差がないという結果が報告され,2009年のコクランレビューでも早期卵巣癌に対する補助化学療法の有効性に関しては,ステージング手術が十分に行われなかったI期症例には予後改善の効果があるものの,ステージング手術が施行されたI期症例では有効性がほとんどないと結論している. 以上よりステージング手術を行った卵巣癌I期症例は予後良好で補助化学療法の有効性が低いと考えられ,JGOG(婦人科悪性腫瘍研究機構)では,ステージング手術が行われた上皮性卵巣癌I期における補助化学療法の必要性をみる,術後補助療法をするしないのランダム化第III相試験を立案しており,まもなく登録開始予定である.
関東連合産科婦人科学会誌, 49(2)
268-268, 2012
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